理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-02
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一般口述発表
転倒恐怖感が歩行時体幹定常性に及ぼす影響 ‐地域在住高齢者における検討-
澤 龍一土井 剛彦三栖 翔吾堤本 広大中窪 翔浅井 剛山田 実小野 玲
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キーワード: 高齢者, 歩行, 転倒恐怖感
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抄録
【はじめに、目的】 体幹には身体重心があり体幹を平衡に維持し、定常性を保ちながら歩行することが安全に歩行する上で重要とされ、体幹の定常性低下は転倒リスクを上昇させると報告されている。一方、転倒リスクの一つである転倒恐怖感は、高齢者の日常生活動作や身体機能に悪影響を与えるとされ、なかでも、転倒恐怖感は歩行に影響を及ぼし、歩行速度の低下や下肢運動変動性の増加などの歩行能力低下を引き起こすと報告されている。転倒恐怖感による歩行能力低下は相乗的に転倒リスクを上昇させると考えられるが、歩行時の体幹定常性に対して転倒恐怖感が及ぼす影響については、未だ明らかになっていない。そこで本研究の目的は、地域在住高齢者における、転倒恐怖感の有無が歩行に及ぼす影響について体幹定常性に着目し検討することとした。【方法】 対象は地域在住高齢者94名 (平均年齢73.0±4.2歳) とし、「普段の生活で転倒に対して恐怖感を感じますか?」の問いに対し、「はい」と答えた者を転倒恐怖あり群 (以下、Fear群) 、「いいえ」と答えた者を転倒恐怖なし群 (以下、No-Fear群)とした。身体機能を表す指標として、下肢の粗大筋力を示す指標に5回立ち座りテスト (以下、5CS) 、全身の身体機能を表す指標に握力を、精神・認知機能を表す指標として、Geriatric Depression Scale (以下、GDS) 、Rapid Dementia Screening Test (以下、RDST) を測定した。歩行路は加・減速路を2.5m、その間10mを測定路として、自由歩行条件下で実施した。データ測定には3軸加速度計を内蔵した小型ハイブリッドセンサを用い、第3腰椎棘突起に装着して行った。歩行速度に加え、ハイブリッドセンサより得られたデータから体幹運動の定常性を表す指標として垂直 (VT)・左右 (ML)・前後 (AP) 方向について自己相関係数 (autocorrelation coefficient : AC) を算出した。ACは0から1の値をとり、値が小さいほど体幹における定常性が低いことを表す指標である。統計解析はχ二乗検定、対応のないt検定で2群間比較を実施した後、2群間に有意差が認められた項目及び歩行指標と相関があるとされる歩行速度にて調整した解析を実施した。5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施し、対象者より事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。【結果】 Fear群が21名、No-Fear群が73名であった。対象者全体の身体機能、精神・認知機能特性は5CSが8.7±2.3 (sec)、握力が29.1±6.9 (kg)、GDSが2.5±2.4 (点)、RDSTが10.4±1.4 (点)であり、2群間での有意差は握力にのみ認められ、Fear群で有意に低値を示した (p = .003)。歩行指標については歩行速度に有意な差は見られなかったが、Fear群については、No-Fear群に比較して、全方向のACで有意に小さかった (AC-VT: p = .003、AC-ML: p = 0.009、AC-AP: p < .001)。歩行速度を含む各因子による調整後においても、Fear群で有意に低い値を全方向において示した (AC-VT: p = .009、AC-ML: p = .034、AC-AP: p = .003)。【考察】 本研究結果より、地域在住高齢者において転倒恐怖感を有していることで歩行時の体幹定常性が低下することが示唆された。一方、転倒恐怖感が及ぼす影響の一つとされている歩行速度の低下は、本研究ではみられなかった。先行研究では、転倒恐怖感による歩行速度低下は歩行の安定性を代償的に確保するために生じるとされているが、それらの対象者は本研究よりも身体機能、精神・認知機能が低かった。本研究の対象者は、身体機能、精神・認知機能は比較的維持されており、転倒恐怖感による影響が歩行速度低下にまでは及ばなかったものの、体幹定常性を低下させたと考えられる。体幹定常性は先行研究において転倒リスク因子との関連が報告されている。地域で自立して生活する高齢者にとって、転倒は今後の自立した生活を脅かす重要な危険因子であり、体幹定常性を維持することは将来の転倒予防のために重要であると考えられる。よって、転倒恐怖感による体幹定常性の低下は改善すべき能力低下であると考えられるが、それらを改善する効果的な方法を考案するためには今後更なる研究が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 地域で自立して生活し、身体機能や精神・認知機能が保たれた高齢者においても、転倒恐怖感は歩行機能に影響を与えている。その変化をとらえるためには体幹を含めた客観的歩行評価を行うことが理学療法においても重要であると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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