抄録
【はじめに】脳血管障害(CVA)患者の機能回復やADLに関する予後予測は,医師およびセラピストの主観的な機能回復やADL回復予測にとどまる。先行研究によると,脳血管障害患者リハビリテーション(リハ)の予後予測式は,臨床現場で用いるには,予測精度が不十分であると言われている。当院でADL回復に影響する多数因子を考慮した重回帰モデルを用いて入院時の所見から退院時ADL得点を予測する式を作った。当院の予測式の特長は,入院時に当院で得られる説明変数を単純なものに限定することで実用性を高めた。また身体機能やADLと合併症,同居者,住環境や経済状況などの社会因子を加味することで予測精度を高めた。今回,実際に約2年間使用してその有効性について検討した。【方法】2007年4月~2009年3月(2年間)までに当院回復期リハ病棟を退院したCVA患者の中で,急性期病院へ転院した患者を除く345名のデータから,退院時FIM運動項目を予測するために重回帰モデルである当院オリジナルの予測式を構成した。解析には統計解析ソフトJMPを用い,目的変数は退院時FIM運動項目とし,説明変数は退院時FIM運動項目の改善に影響する入院時の35項目の臨床指標からステップワイズ法によって以下10項目の変数が選択された。予測式は,退院時FIM運動項目得点=135.9-0.30*(年齢)-4.80*(診断名)-3.19*(入院時意識障害) -3.44*(高次脳機能障害)-5.63*(半側無視)-2.04*(ST目的)-6.44*(構音障害)-3.94*(栄養)-15.25*(リハ意欲)+0.28*(入院時FIM)である 。入院1ヶ月以内に予測式から予測値を求めて,電子カルテのメールで担当PT・OTへ配信している。予測値はあくまで点数なので,辻らのFIM運動項目の持つ意味から目標の歩行レベルとADLを添付している。そして2010年10月1日から2012年9月30日(2年間)までに退院した急性期病院へ転院した患者を除く286名を対象として,入院時の予測式を用いた予測値と実測値である退院時の運動FIM得点,加えて退院先別,入院期間別に相関係数を用いて比較した。また予測式を使用した1年目(2010年10月1日~2011年9月30日)と2年目(2011年10月1日~2012年9月30日)の治療成績についてもΧ2検定を用いて比較した。【倫理的配慮】本研究はデータ抽出後,集計分析した後は個人情報を除去し,施設内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。【結果】予測値と実測値に有意な正の相関(r=0.84,r2=0.71)がみられた。また実測値が予測値以上だったのが188名(66%,r=0.82),実測値が予測値より低かったのが98名(34%,r=0.95)であった。退院先別では自宅復帰213名(74%,r=0.69),その他73名(26%,r=0.82)であった。入院期間別では0~90日以内は120名(42%,r=0.83),91~180日は156名(54.5%,r=0.82),181日以上は10名(3.5%,r=0.85)であった。治療成績の年次比較は,1年目の111名(r=0.84,r2=0.70)は,予測値と同じか高かったのが75名(68%,r=0.85),低かったのが36名(32%,r=0.96)であった。2年目の175名(r=0.84,r2=0.71)は,予測値より同じか高かったのが113名(65%,r=0.81)で,低かったのが62名(35%,r=0.95)であり,1年目と2年目の間に有意差を認めなかった。【考察】CVA患者は多くの機能障害を合わせもち,機能回復とADL改善は乖離し,改善パターンが直線形でなく予後予測が難しいと言われている。重回帰モデルによる予後予測は,ADL回復に関与する阻害因子と促進因子が分かり,関与因子の寄与する大きさも分かる。退院先や入院期間に関係なく,予測式が約70%の対象者に当てはまることがわかった。今回比較した治療成績に差はなかったが,予測値より実測値の高い割合が多くなれば,リハの質が向上したことになると思われる。今後予測式に担当セラピストが自ら入力して使用する等,より身近なものにする為の工夫が必要だと考えられた。セラピストの予後予測を数値化し,予測式の予測値とどちらが実測値に近いのか比較することが課題である。当院オリジナルの予測式で,他施設での使用と言った汎用性には欠けるが,ゴール設定の補助ツールになり得るのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】CVA患者リハの質の向上に役立つツールであることが示唆された。