抄録
【はじめに、目的】 正常歩行において立脚期のロッカー機能は、ヒールロッカー、アンクルロッカー、フォアフットロッカー、トゥーロッカーの4つに分けられる。これらは倒立振子の作用により身体重心を前方へ進めるための重要な機能である。変形性股関節症(股OA)患者では、股関節の障害により他関節への二次的な影響が認められ、このロッカー機能についても異常をきたしている可能性があると考える。そこで今回、股OA患者の歩行時の足関節運動の特徴について健常者との違いを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は当クリニックにて人工股関節全置換術施行予定の片側末期股OA患者10名(全例女性、平均年齢58.1±8.7歳、Harris Hip Score 58.9±8.3点)であり、股OA群とした。また、健常成人女性10名(平均年齢57.4±7.9歳)を健常群とした。 歩行時の足関節運動の評価にはGait Judge System(川村義肢社製)を使用した。Gait Judge Systemは油圧制動付短下肢装具Gait Solutionに、足関節底屈方向の油圧抵抗トルクと足関節角度、加速度が計測できる機器を取り付けたものである。測定肢にGait Judge Systemを装着し、自由速度にて10m歩行時の油圧抵抗トルクと足関節角度を計測した。測定肢は股OA群は手術予定側とし、健常群は左右ランダムに決めた。安定した1歩行周期内での立脚初期~中期の最大油圧抵抗トルクを1st Peak、立脚後期~遊脚初期の最大油圧抵抗トルクを2nd Peakとした。また、初期接地(IC)時の足関節底屈角度、立脚期と遊脚期それぞれの足関節最大底屈角度と足関節最大背屈角度を測定した。 各測定項目の股OA群と健常群の比較をするために、統計解析はMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は全て5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭ならびに書面にて十分に説明し、研究参加の同意書に署名を得た。また、本研究は当クリニックの倫理規定に則り実施した。【結果】 油圧抵抗トルクの1st Peakは股OA群2.2±0.6Nm、健常群2.4±0.5Nmであり、両群間に有意な差は認められなかった。2nd Peakは股OA群1.1±0.6Nm、健常群2.1±0.8Nmであり、股OA群のほうが有意に小さかった(p<0.05)。 IC時の足関節底屈角度は股OA群1.6±0.4°、健常群0.9±0.9°であり、股OA群のほうが有意に大きかった(p<0.05)。立脚期の足関節最大底屈角度は股OA群3.3±0.6°、健常群3.9±0.8°であり、股OA群のほうが有意に小さかった(p<0.05)。立脚期の足関節最大背屈角度は股OA群15.7±2.4°、健常群11.9±2.2°であり、股OA群のほうが有意に大きかった(p<0.01)。遊脚期の足関節最大底屈角度は股OA群2.2±0.6°、健常群3.7±1.5°であり、股OA群のほうが有意に小さかった(p<0.05)。遊脚期の足関節最大背屈角度は股OA群8.7±2.3°、健常群7.6±3.1°であり、両群間に有意な差は認められなかった。歩行速度は股OA群46.9±7.9m/min、健常群68.2±6.8m/minであり、股OA群のほうが有意に低かった(p<0.01)。【考察】 本研究の結果より、ヒールロッカーで生じるトルクの大きさを表す1st Peakは両群間に有意差はみられなかった。しかし、股OA群のほうがIC時の足関節底屈角度は大きく、立脚期の足関節最大底屈角度は小さいことから、ヒールロッカーからアンクルロッカーにかけて足関節運動が健常者と異なることが示唆された。これは脚長差による墜落性跛行の影響が考えられる。また、フォアフットロッカーで生じるトルクの大きさを表す2nd Peakは股OA群のほうが有意に小さかった。反対側下肢接地後の両脚立脚期には下腿三頭筋の筋活動は減少し、単脚立脚期に伸張された下腿三頭筋腱の弾性エネルギーによって2nd Peakが出現するとされる。このため健常者では油圧抵抗トルクの2nd Peakは歩行速度と関連することが報告されている(Ohata,2011)。立脚中期以降、健常者では股関節は伸展位まで伸張されるが、股OA患者は股関節伸展可動域制限により同時期に股関節屈曲、膝関節屈曲、足関節背屈角度が増大する。足関節背屈角度は増大するが膝関節は屈曲位であるため、腓腹筋腱の伸張が不十分であり、その弾性エネルギーが小さく、2nd Peakが小さくなったと考えられる。このことは足尖離地後の遊脚期の足関節最大底屈角度が健常者に比べて有意に小さいことや歩行速度が低下していることにも反映されていると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により片側股OA患者の歩行時の足関節運動の異常が明らかになり、股関節だけではなく歩行時の足関節機能についても注意して理学療法を展開する必要があると考える。