理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-01
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一般口述発表
力学的エネルギー交換率は回復期脳卒中患者の生理的な歩行効率と関係する
井上 靖悟山口 智史小宅 一彰田辺 茂雄近藤 国嗣大高 洋平
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キーワード: 歩行能力, 評価, 歩行距離
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抄録
【はじめに】 回復期における脳卒中患者は,早期より歩行トレーニングを行い連続歩行距離を延長することで,退院後の日常生活で長距離の移動を可能にする必要がある.長距離の移動には,エネルギー消費が少なく,効率の良い歩行が望まれる.歩行におけるエネルギー効率の指標として,力学的エネルギー交換率(%Recovery ;%R)がある.%Rは,重心運動の位置エネルギーおよび運動エネルギーの変化から歩行効率の評価が可能である(Cavagna 1976).しかしながら,%Rが生理的な歩行効率や連続歩行距離と関係するかは検討されていない.%Rが生理的な歩行効率や連続歩行距離とどの程度関連するかを理解することは,歩行能力を改善させる治療戦略の一助になると考えられる.本研究では,回復期脳卒中片麻痺患者において,力学的な歩行効率である%Rと生理的コスト指数(Physiological Cost Index;PCI)が関係するかを検討した.さらに,歩行効率の結果として得られる連続歩行距離についても検討した.【方法】 平成24年7月から10月の間に,当院回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中片麻痺患者22名(男性13名,女性9名,平均年齢64.5±10.0歳)を対象とした.採用基準は,歩行能力がFunctional Independence Measure 5以上,且つ,6分間連続歩行が可能な者とした.また虚血性心疾患や肺疾患の既往がある者は除外した.対象者の発症後期間は,103±36日であった.診断名は,脳出血11名,脳梗塞11名であった.麻痺側は右11名,左11名であった.下肢Brunnstrom-stageは,stageIIが3名,stageIIIが4名,stageIVが6名,stageVが9名であった.課題は,至適歩行にて10m歩行と6分間歩行とした.10m歩行は,歩行距離前後3mを含む歩行路10m(合計16m)で実施した.また6分間歩行では,10mの歩行路を6分間可能な限り往復した.課題中は,日常用いている補装具と短下肢装具を使用した.%Rを評価するため,10m歩行中に小型無線加速度計(WAA-006,ワイヤレステクノロジー社)を第3腰椎棘突起部に固定し,加速度を測定した.得られた加速度データは,前後加速度のピーク値に基づき歩行周期を特定し,10歩行周期分を加算平均した.その後,時間で積分し速度を求め,その速度を積分し重心の変位を算出した.重心の上下変位と速度から位置エネルギーと運動エネルギーを算出し,それらの値の和から全力学的エネルギーを算出した.さらに,位置エネルギーの増加量(potential work;Wp),運動エネルギーの増加量(kinetic work;Wk),全力学的エネルギーの増加量(total mechanical work;Wt)を用いて,%R(%R={1-Wt/(Wp+Wk)}×100)を算出した.健常若年者の至適歩行における%Rは,約65%を示すと報告がある.PCIでは,6分間の連続歩行距離と歩行前後での脈拍数を計測した.脈拍数は,非麻痺側の指先に取り付けた,パルスオキシメータ(日本光電)にて計測した.脈拍数の計測は,イス座位での閉眼とし,心拍数が一定の状態を安静時脈拍数とした.また歩行後の脈拍数は,6分間歩行直後に立位にて計測した.歩行前後の脈拍数と歩行距離より求めた歩行速度(m/min)から,PCI(PCI={歩行後脈拍数-安静時脈拍数}/歩行速度)を算出した.統計解析は,Pearson積率相関係数を用いて検定した.有意水準は5%とした.【説明と同意】 所属施設における倫理審査会の承認後に,研究趣旨を十分に説明し同意を得て実施した.【結果】 %Rは53.7±16.9%であった.PCIは1.18±0.89beats/mであり,6分間歩行距離は166.6±106.2mであった.%RとPCIの相関係数は,r=-0.812(p<0.05,信頼区間-0.919~-0.594)で有意な負の相関を示した.また%Rと6分間歩行距離の相関係数は,r=0.854であり有意な正の相関を認めた(p<0.05,信頼区間0.676~0.938).【考察】 回復期の脳卒中片麻痺患者において,%RとPCIおよび連続歩行距離は有意な相関を認めた.これらの結果は,力学的エネルギー効率の指標である%Rは,生理的な歩行効率を示す指標として用いることができることを示している.また,連続歩行距離との関係も認めた.つまり,%Rが良好である患者は,力学的および生理的にもエネルギー効率に優れ,連続歩行距離の延長につながると推察された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,回復期における脳卒中患者の生理的歩行効率や連続歩行距離を改善するために,力学的エネルギー交換率を評価することが重要であることを示した点で,理学療法学研究として意義がある.
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© 2013 日本理学療法士協会
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