理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-42
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ポスター発表
他者の把持動作観察時における体性感覚刺激が手指筋支配M1 興奮性に及ぼす影響
田中 恩上原 一将窪田 慎治隠明寺 悠介守下 卓也藤本 周策平野 雅人船瀬 広三
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抄録

【はじめに、目的】理学療法実施において他者の動作を模倣することは,患者にとって基本的な練習方法の1 つであり,理学療法士にとっても評価・治療に必要なスキルの1 つである.Sakamoto(2009)らによると,他者の動作の観察時にM1 の興奮性が高まり,同時にイメージをすることでM1 の興奮性がさらに高まることをミラーニューロンの働きと関連付けることで説明されており,漫然と観察しているのか,注視して観察しているのか等,観察条件の違いが結果に影響することも知られている.他方,体性感覚野における視覚と触覚の多感覚を統合するシステムが存在することが明らかになっているが,異なる体性感覚刺激の入力によるM1 興奮性に関する検討はされていない.そこで,本研究では,他者の把持動作観察時にタイミングを合わせて観察者の手指の体性感覚を刺激し,視覚と体性感覚という異なる感覚入力を同時に刺激した場合の観察者の手指筋支配M1 の興奮性変化についての検討を通してミラーニューロンシステム(MNS)が活性化されやすい神経生理学的因子について明らかにすることを目的とする.【方法】被検者は健常成人8 名(22-29 歳)とし,他者が右手の拇指と示指で水平U字鋼のつまみ動作を行う映像を観察する際に,観察者である被検者の右手第一背側骨間筋(FDI)および小指外転筋(ADM)支配の一次運動野(M1)に8 の字コイルを用いて経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え,両筋から運動誘発電位(MEP)を記録した.TMS強度はFDIの安静時閾値の1.2 倍とした.被験者は安静座位でテーブルに両手を回内位で置き,眼前1mに設置された映像モニターを注目し,以下の4 条件が与えられた.1)control:映像モニターの背景静止画を見る,2)指先への電気刺激(ES)のみ,3)提示映像の観察(OBS)のみ,4)OBS+ES.提示映像は,被験者にとってつまみ動作が一人称視点になるように,実験者が水平U字鋼をつまむ動作をビデオカメラで撮影しリアルタイムでモニターに映した.また,U字鋼に歪みゲージを貼付し,つまみ動作と同時にESおよびTMSのトリガーがかかるようにした.課題1,2 は実験者の任意のタイミングでESおよびTMSを行い,課題3,4 はつまみ動作トリガーによりESおよびTMSを与えた.ESとTMSの刺激間隔は刺激感覚入力の対側感覚野への遅延時間を考慮し25msとした.ESは母指と示指にバータイプ電極を当て,5ms間隔で1ms矩形波を5 発与えた.ES強度は指先に触覚を引き起こす程度(感覚閾値の約1.3 倍)とした.統計処理は,条件と筋を要因とした二元配置分散分析を行い,post-hoc test としてBonferroni testを行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院総合科学研究科倫理委員会の承認を得て実施した.また,被験者には十分な説明を行い書面にて同意を得た.【結果】二元配置分散分析の結果,FDI,ADM間に有意な差がみられた.また,FDIにおける各条件下でのMEPはいずれもcontrolと比較して減少傾向がみられ,多重比較の結果controlとOBS+ES間に統計的有意差がみられた.ADMにおいては各条件間の有意差はみられなかった.【考察】筋間の差から,つまみ動作時に実際に活動するFDIにおいて観察者のM1 興奮性が高まることが示唆された.また,先行研究ではOBS条件でMEP増大がみられたが,本研究では,視覚刺激と触覚刺激を同時に行った場合,MEP振幅が減少することが示された.これは異なる2 種の感覚入力により,観察者の当該筋支配M1 興奮性が抑制されることを示しており,MNSに対する効果を示唆するものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】動作の観察模倣システムが明らかとなり,効率的な模倣が可能となれば,理学療法士にとっても患者にとっても有意義なことであり,本研究はその基礎的知見となると思われる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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