理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-07
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セレクション口述発表
変形性股関節症患者における方向転換歩行時の動作特性
建内 宏重塚越 累福元 喜啓黒田 隆宗 和隆秋山 治彦市橋 則明
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抄録
【はじめに、目的】変形性股関節症(以下、股OA)は、関節可動域制限や疼痛、筋力低下を生じるため、歩行動作に著しい障害を認める。従来、股OA患者の動作特性を調べるために直線歩行が研究対象となり、健常者に比べ股関節角度やモーメントが低下していることが多く報告されている。しかし、日常的な移動動作としては、直線歩行ばかりでなく歩きながら方向転換する動作が多用されていると思われる。その上、方向転換歩行は直線歩行よりも股関節に複雑な動きが要求されるため、患者の代償的な動作特性がより顕著に現れる可能性がある。しかし、そのような観点からの調査は皆無である。本研究の目的は、方向転換歩行を詳細に分析することにより股OA患者の動作特性を明らかにすることである。【方法】対象は、股OAの女性患者14名(年齢59.3±5.3歳)と健常女性13名(年齢62.6±4.4歳)とした。股OA患者の病期は全て末期であり、Harris hip scoreは61.1±10.5点であった。課題は、直線歩行と直線歩行の途中で左45°および右45°へ方向転換を行う歩行の3種類とし、各3試行を記録した。方向転換歩行について、健常者は、非利き脚を支持側とし利き脚を外側に踏み出す動作(ステップ)と利き脚を支持脚側に踏み出す動作(クロス)とし、患者は、患側を支持脚とし反対脚を外側に踏み出す動作(ステップ)と患側に踏み出す動作(クロス)とした。歩行速度は、患者は自由歩行とし、健常者は自由歩行とともに、両群で歩行速度に有意差が出た場合に速度を揃えて歩行パラメータの比較分析を行うため速度を遅くした動作の測定も行った。測定には、3次元動作解析装置(VICON 社製:200Hz)と床反力計(Kistler社製:1000Hz)を用いた。各動作時の歩行速度、および股屈伸・内外転、膝屈伸、足底背屈の関節角度と内的関節モーメントを算出した。関節角度と関節モーメントは、支持脚側の下肢(健常者は非利き脚、患者は患側)を対象とし、歩行周期における最大値を求めた。なお、足底屈モーメントについては、立脚期の前半・後半それぞれの最大値を求めた。関節モーメントは、体重と下肢長の積により標準化した。各動作について3試行の平均値を解析に用いた。統計解析として、まず、健常者と患者との間で各動作の歩行速度の差を検定した(対応のないt検定)。有意差があった場合は、健常者のなかで歩行速度が速い者から順に遅い歩行動作を対象として、歩行速度に有意差がなくなった段階で、両群間の関節角度と関節モーメントの比較を行った(対応のないt検定)。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し参加への同意を書面で得た。【結果】歩行速度について、ステップとクロスについては有意差を認めなかったが、直線歩行では患者よりも健常者の歩行速度が有意に速かった。健常者2名について、遅い歩行動作を対象としたところ両群に歩行速度の差がなくなったため、その後に3条件各々での関節角度・モーメントの群間比較を行った。直線歩行では、股屈曲・伸展・内転角度、膝屈曲角度と股伸展・屈曲モーメント、膝屈曲モーメントが、健常者よりも患者で有意に低値を示した。足関節の角度、モーメントには差を認めなかった。ステップでは、股屈曲・伸展・外転角度、股屈曲モーメント、膝屈曲モーメントが患者で有意に低値を示した。また、足底屈モーメント(前半)は患者で高い傾向を示したが有意ではなかった(p = 0.07)。クロスでは、股屈曲・伸展・内転角度、膝屈曲角度と股外転モーメント、膝伸展モーメントが患者で有意に低値を示したが、足底屈モーメント(前半)は患者で有意に高値(25%増)を示した。【考察】股OA患者においては、直線歩行では、股関節の可動範囲や力発揮が減少していることが示され、先行研究と一致した結果を得た。一方、方向転換歩行では、股関節での機能低下を認めるとともに立脚期前半からの足底屈筋による力発揮が健常者よりも強くなる傾向にあることが確認され、方向転換歩行では股関節よりも相対的に足底屈筋へ依存した制御が行われることが明らかとなった。方向転換歩行では股関節に要求される運動が複雑になるため、代償的に用いやすい足底屈筋を作用させ、立脚早期からの前足部での荷重により方向転換を行う傾向にあるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により、直線歩行よりも方向転換歩行のほうが、股OA患者の動作特性がより顕著に現れることが示された。臨床場面においても、直線歩行の観察やその改善のみならず方向転換歩行への着目が重要であることを、本研究は示唆している。
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© 2013 日本理学療法士協会
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