抄録
【目的】 理学療法士教育における臨床実習は大きな位置を占め、これまで学術大会等の多くの機会に議論されてきている。その様な中、近年の養成校の急増の状況から、実習地における指導者不足の問題に加え、臨床実習に臨む学生達の社会的スキル不足・精神的未熟者の存在、そしてモンスター保護者など、過去に見ない例が問題になっている。そこで連携が密にとれる、養成機関である本学と臨床現場での、臨床教育の在り方を改めて検討を加えることで、将来的に臨床現場と協力した教育方法が見出せるのではないかとの課題を設定し、まずは臨床実習指導(以下、SVと略す)に対し、特に指導への関心の有無の点から調査・検討を行ったので、ここに報告する。【方法】1.PT教育の現場の全体を反映できる様に、診療領域として、総合、整形、小児の3施設の過去に学生指導を経験したことがあるPT47名を対象とした。2. 質問紙法を用いた。項目とその記載は、無記名とし、性、経験年数等を問うface sheetに加え、設定した(結果で項目を示すことから割愛)項目毎に、想定される選択肢とその他としての自由記載覧等を組み合わせ作成した。3.事前処理として、回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適当と判断されたものは除外した。4.集計はMicrosoft Excel 2010を用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、アンケート対象施設に対し、口頭および文書にて研究主旨を十分説明し、同意を得られたもののみ対象とした。【結果】1. 47名(回収率90.4%)の内、有効回答は3施設PT34名(男:22名、女:12名) 臨床経験年数は9.4±1.08年(平均±SE)。2.各項目で以下のことがわかった。1) 個別項目(1)指導への関心の有無(以下、有群と無群):有28名(82.4%)、無5名(14.7%)無回答1名(2.9%)、(2)SVの学生時代の思い(楽しい、辛い):「楽しい」;11名(33.3%)、「辛い」14名(42.4%)、「楽しい」と「辛い」の両方4名(12.1%)、その他4名(12.1%)。2) (1) 関心の有無に関係なくSVの学生時代はいずれも「辛い」(有群10名35.7%、無群3名60.0%)が優位であった。(2)関心の有無に関係なく、SVの使命の順位で見ると、「学生に興味を持たせること」、「後輩の育成」、「養成校の臨床部分」を担うとなった。有群の1位、2位での累計例示では、23件、22件、9件。(3)関心の有無に関わらず「やりがい」を感じる(有群26名92.9%、無群3名60.0%)一方、同時に「負担」(有群27名96.4%、無群4名80.0%)とも感じている。また、実習に関心を持つSVは、「学生指導は、治療者としての成長の為に必要」(24名82.8%)であり、同時に指導者自身も「指導方法を学びたい」(22名81.5%)と考えている。一方、関心ない者はその全く逆の「学生指導は、治療者としての成長の為には必要ではなく」(5名100%)、同時に指導者自身も「指導方法を学びたくない」(2名40.0%)と相反する結果となった。反面、関心の有無に関わらず「養成校が指導者を評価することが必要」(有群15名51.7%、無群4名80.0%)と認識していることがわかった。【考察】結果から、SVの多くは学生時代に楽しいより辛い思いがあったが、これに関係なくその多くが指導に関心を持ち、かつ現場では、養成校教育の臨床部分を担うという義務的価値観ではなく、負担を感じつつも、専門職もしくはPT個人の教育観として、学生へ興味を持って欲しいと言う希望・夢や後輩の育成と言う使命感をも持ち、やりがいを感じて指導し、かつSV自身が治療者としての成長の為には必要との思いを持って指導している姿が想起できた。また、SV自身の指導方法の妥当性についても、指導方法も学びたいし、養成校からの指導の評価も望んでいることがわかった。これらSVの現状の認識から、より良い教育を目指すためには、SVの負担を減らし、指導方法の提供など今後検討が必要であることが分かった。加えて、指導経験があるにも関わらず、指導に関心を持てない者が全体の14.7%(5名)存在することは、社会組織の教育機能として見逃すことはできない。その要因については更に検討と工夫が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今回の調査と更なる調査・検討によって現状を捉え、改善策を導くことは今後の理学療法教育の発展に必要だと考える。