抄録
【目的】 運動機能向上には感覚機能も重要であり、メカノレセプターや触圧覚など、感覚機能への治療の重要性が高いと言われている。しかし、整形外科領域で感覚神経を評価した研究は数少なく、術後1週間以内における治療効果を検討したものは渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究は、下肢整形外科疾患術後5日以内の患者を対象とし、徒手圧迫が感覚神経や関節可動域に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】 対象は当院整形外科にて下腿、足部の観血的整復固定術を行い、研究の内容を理解できる術後5日以内の患者7名(男性5名、女性2名、年齢48.4±14.7歳、術後3.4±1.0日)であった。評価項目は、①足関節底背屈可動域(ROM)、②周径、③術側足関節自動底背屈時の主観的疼痛(VAS)、④電流知覚閾値(CPT)とした。ROMは第5中足骨頭と骨底部、腓骨頭と外果にマーカーを貼付し、膝屈曲位にて外側から底背屈自動運動をデジタルカメラで撮影した。それをパソコンに取り込みDARTFISH(DARTFISH社製)を利用し、角度を1°単位で計測した。周径は足軸に対して直角になるように舟状骨中央を通るラインでメジャーを利用して計測した。VASは術側足関節自動底背屈運動時の痛みが「全くなし」を0、「受傷時や術後の最大の痛み」を10とした。CPTはNeurometer CPT/C NS3000(PRIMETECH社製)を使用し、モードはFULLRY AUTOMATICとし、周波数は2,000Hz、250Hz、5Hzで計測した。電極は浅腓骨神経領域の第3趾背側に貼付し、数値としての結果が出た時点で次の項目へと移行した。上記評価項目は術側に対して行い、治療前と治療直後に計測した。治療は、マーカーは貼付したまま下腿と足部を対象者が気持ち良いと思う程度の徒手圧迫を遠位から近位に全体的に加ええ、時間は15分とした。評価と治療は同一検者にて個室で行った。統計処理にはPASW Statistics18を用い、各評価項目の治療前後の結果についてpaired t-testを行い、危険率を5%未満とした。また、各評価項目についてPeasonの相関係数を用いて項目間の相関係数を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に従い、対象者には本研究の趣旨やリスク、撤回の自由などを口頭と文書にて十分に説明し、同意書に署名を得た。また、本研究は当院倫理委員会の承認を得てから行った。【結果】 治療前のCPT値の平均は、健常者の平均値を大きく超えていた。以下に統計結果を評価項目:治療前±標準偏差→治療後±標準偏差と表す。背屈:-18.7±15.4°→-12.6±14.9°、周径:26.7±1.5cm→26.2±1.4cm で有意差が認められた(p<0.001)。また、VAS:20±14mm→12±7mm、底屈:52.4±4.9°→56.7±5.1°、5HzCPT値:236.4±199.3→124.4±130.4でも有意差が認められた(p<0.05)。さらに、VASと250HzCPT値、VASと5HzCPT値、250HzCPT値と5Hz CPT値にて強い正の相関係数が認められた。【考察】 CPTの2,000HzはAβ線維、250HzはAδ線維、5HzはC線維の評価である。治療前のCPT値が健常者平均値を大きく超えていたことで、手術を施行した5日以内は表在・深部感覚が重度鈍麻であったということが伺える。そして、今回の徒手圧迫にてC線維のCPT値は有意に低値を示した。さらにVASも有意に低下し、周径やROMも有意に改善が見られた。これらのことから、徒手圧迫により静脈還流改善が図れ、浮腫軽減につながり侵害刺激が減少したこと、リラクセーション効果が得られたことが考えられる。また、痛覚神経線維の鈍麻とVAS、Aδ線維とC線維に各々強い正の相関が得られた。つまり、手術後の患者が痛みを訴える場合は、痛覚神経は鈍麻であるにも関わらず、主観的な痛みは強いということを示している。これらのことから、感覚鈍麻の閾値を超えた強い痛み刺激が与えられているということが考えられる。今後はデータを蓄積していくことで、術後疼痛のメカニズムやそれに対する治療効果を明確にすることの一助となるものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は術後5日以内の感覚神経を客観的数値で表したことで、患部の状態を把握することができた。さらに、徒手圧迫という臨床上簡便な方法が、術後急性期で痛みが強く運動困難な患者に対する治療の一つとして、有効であることが示唆された。