理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-45
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ポスター発表
運動療法としてのスロートレーニング
筋疲労等を指標としたトレーニング効果の経時的変化
岩井 唯紘川上 照彦玉利 光太郎横山 茂樹
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抄録
【はじめに、目的】術後患者や高齢者などの筋力を増強することによって、ADL能力を高めるということは重要であり、簡便で安全かつ効率的に行える筋力増強法は常に模索されている。近年、提唱されてきた筋力増強法としてスロートレーニング(slow resistance exercise:以下SRE)が注目されている。SREとは、負荷をかけて挙上・下降動作をきわめてゆっくりと行うものである。これまでにSREでは運動中の血中乳酸値、成長ホルモン(以下:GH)が従来の運動療法に比べ有意に上昇し、その結果筋力増強効果が高いと報告されている。SREは新しい筋力増強法であり、1.SREの効果はどの程度継続するのか、2.筋力増強効果は血中乳酸との関係が深いとの報告があるが、期間により変化してくるのか、また自覚的な疲労度と血中乳酸の関係性はどのようになっているのか、3.SREによって筋瞬発力が低下する報告があるが、どの程度、どの時期で低下するのかということは明らかとなっていない。そこで今回の研究では、SREを運動療法の1つの治療法として確立するため、その効果の経時的変化を明らかにすることが必要であると考え検討を行った。【方法】対象は、健常な若年者16名(男性10名・女性6名)とした。年齢25.0±3.7歳、身長168.0±7.1cm、体重60.1±12.3kg、BMI(Body mass index)21.2±3.2であった。普段から運動を習慣にしている者、疾病または外傷を有して通院している者を除外した。動作は肘関節の屈曲-伸展運動を行わせることとした。これらの対象者を、SREを行うA群(50%1RM)、従来の高負荷トレーニングを行うB群(80%1RM)の2群に無作為に割付して比較検討した。期間は8週間とし、2週間で5回、計20回実施した。また両群間での体格差は無い。【倫理的配慮、説明と同意】研究はヘルシンキ宣言に則るものであり、吉備国際大学倫理審査委員会にて承認を得た。研究に際し書面で十分に説明を行い、同意を得たものを被検者とした。【結果】血中乳酸値は、運動前後及び群間での差は認められなかった。しかしBorgスケールは8週間の期間でA群は平均3.0、B群は平均2.3低下しており、経過期間の要因の主効果と交互作用も認められ、A群の方が早期に疲労感が軽減した(p<0.05)。EMG-RTは、各期間において運動前は早く、運動後は遅延する傾向が見られたが、有意差は認められなかった。肘関節屈曲筋力は、A群は5.2kg、B群は7.1kg増強し、筋力増強法の要因に主効果を認めた(p<0.05)。群間での差は認められなかった。【考察】1.SREの効果は、8週間の中では上限を迎えることはなかった。そのため、筋力増強効果の停滞は8週以降であり、少なくとも8週間は継続することが分かった。2.SREによる血中乳酸の経時的変化は、A群はB群に比べ筋肉内乳酸値が有意に多いとは言えず、SREの特徴である乳酸値の上昇を認めるには至らず、先行研究とは異なる結果となった。先行研究では対象を下肢筋としており本研究では上肢筋を対象としているため、このことから筋量の絶対量が異なることで乳酸を生産する量に差があるとも考えられる。また、SREと高負荷トレーニング間で血中乳酸値に差が無かったが、BorgスケールはA群の方が8週間の期間において減少していた。筋疲労の観点からは乳酸値と相関していない。このことよりSREでは高負荷トレーニングと同様に乳酸を筋肉内に蓄積しても自覚的な筋疲労が早く軽減すると考えられた。3.SREによって筋瞬発力低下について、運動後において遅延する傾向が見られたが明確な結果が得られず群間での差も見られなかった。先行研究で懸念されていた瞬発力の低下は見られなかった。【理学療法学研究としての意義】SREは従来の高負荷トレーニングと同様の筋力増強効果を得られる上に、筋疲労を自覚しにくいことから、運動療法において有効な方法である可能性が示唆された。
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© 2013 日本理学療法士協会
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