理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-01
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ポスター発表
筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進過程におけるマウス骨格筋の形態的変化と機能的変化
村田 奈緒子伊東 佑太吉岡 潔志河上 敬介
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キーワード: 筋萎縮, 筋力増強運動, 筋力
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抄録
【はじめに、目的】筋萎縮を起こしたマウスに対して筋力増強運動を行わせると、筋萎縮からの形態的な回復促進効果が認められた(第45 回理学療法学術大会)。しかし、この形態的な回復促進効果が、機能的な筋力の回復変化に結びつくかどうかは不明である。そこで我々はマウスの足関節最大等尺性底屈トルク(以下底屈トルク)を非観血的に測定できる装置を開発した。そしてこの装置を用いて、筋力増強運動による筋萎縮からの形態的な回復促進効果と、機能的な回復促進効果を検証した。【方法】10 週齢のICR マウス(n=30)に対して、7 日間のオペラント学習により自発的な立ち上がり運動を学習させた後、後肢筋を萎縮させるため14 日間の尾部懸垂を行った。その後筋力増強運動として立ち上がり運動を1 セット25 回、1 日2 セット、7 日間行った(TS+RE群)。この筋力増強運動期間中0、3、7 日目に底屈トルクを測定し、機能的評価とした。底屈トルクはマウス下腿後面に貼り付けた電極により電気刺激(electronic current 5 mA、frequency 100 Hz、duration 1 ms、train duration 650 ms)を与え、等尺性収縮させた時に圧センサーに加わる力を算出して求めた。なお、本方法で得られる底屈トルクの精度は、標準偏差1.07 mN・m、変動係数11%である。また筋力増強運動期間後にヒラメ筋、足底筋、腓腹筋の横断切片を作製、Hematoxylin-Eosin染色を施し、筋腹の横断面積を測定し、形態的評価とした。なお、ヒラメ筋については筋線維の横断面積も測定した。対照群として、尾部懸垂後すぐに筋採取する群(TS群)と同週齢の尾部懸垂を行わない群(NTS群)、尾部懸垂後に筋力増強運動を行わない群(TS+NRE群)および同週齢の尾部懸垂も運動も行わない群(NTS+NRE群)を作製し評価結果を比較した。群間の比較には一元配置分散分析を用い、多群間比較にBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は所属大学の動物実験委員会の承認を得てから行った。【結果】TS群の底屈トルク(7.73 ± 0.93 mN・m)は、NTS群(9.71 ± 1.36 mN・m)に比べて20%小さかった(p<0.05)。TS+RE群の底屈トルク(3 日目;8.21 ± 0.97 mN・m、7 日目;9.40 ± 1.02 mN・m)は、7 日目でTS群に比べて21%大きくなり(p<0.05)、NTS+NRE群(9.97 ± 0.94 mN・m)に比べて有意な差がなかった。TS+RE群は、TS+NRE群(3 日目;8.29 ± 1.88 mN・m、7 日目;8.53 ± 1.52 mN・m)に比べて有意な差がなかった。TS群のヒラメ筋筋腹横断面積(0.83 ± 0.31 mm2)は、NTS群(1.24 ± 0.32 mm2)と比べて33%小さかった(p<0.05)。しかし、TS群の足底筋の筋腹の横断面積(1.59 ± 0.21 mm2)は、NTS群(1.90 ± 0.10 mm2)と比べて17%小さく、腓腹筋の筋腹の横断面積(17.36 ± 0.50 mm2)はNTS群(18.95 ± 1.59 mm2)と比べて8%小さいのみであった。TS群のヒラメ筋筋線維横断面積(976 ± 37 μm2)はNTS群(1712 ± 190 μm2)に比べて43%小さかった(p<0.05)。TS+RE群のヒラメ筋筋線維横断面積(1551 ± 374 μm2)はTS+NRE群(1209 ± 79 μm2)と比べて28%大きく(p<0.05)、NTS+NRE群(1955 ± 136 μm2)の79.4%であった。【考察】本装置を用いることにより、筋萎縮やその回復過程でのトルクの変化を経時的に評価できることが分かった。また、先行研究と同様にヒラメ筋の筋線維横断面積では筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進効果が認められた。しかし、ヒラメ筋で形態的に認められた筋力増強運動による回復促進効果を、足関節最大底屈トルクで評価することはできなかった。この理由として、足関節底屈トルクの発揮には複数の筋が関わっており、筋萎縮やそこからの回復速度が異なる遅筋と速筋が混在するためだと考える。ただ、筋力増強運動によるヒラメ筋の形態的な回復促進は、姿勢維持や平衡性などの遅筋が関わる機能の向上に有効かもしれない。今後の検討課題である。【理学療法学研究としての意義】筋萎縮からの回復やその運動療法の効果を、形態的側面と機能的側面から捉えることが可能となった。本法を用いることで、萎縮筋に対するより効果的な運動療法やそのメカニズムを解明することが可能となる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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