理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-04
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セレクション口述発表
内側膝蓋大腿靭帯再建術後における膝関節屈曲可動域の推移について
梅原 弘基高村 隆黒川 純細川 智也藤井 周
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抄録
【はじめに、目的】 反復性膝蓋骨脱臼に対する内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術後の膝関節屈曲可動域に関しては良好な回復との報告されている一方で、合併障害として膝関節屈曲可動域制限症例に関する報告もされている。しかしながらこれらの報告は最終フォローアップ時であることが多く、膝関節屈曲可動域の推移を詳細に検討した報告は少なく一定の見解を得られていない。また当院ではMPFL再建術後に膝伸展位でのニーブレースを一定期間装着する為、膝関節屈曲可動域は理学療法初期における重要な課題となるが、膝関節屈曲可動域回復は症例により経過が異なることを経験する。本研究の目的はMPFL再建術後における膝関節屈曲可動域の推移について検討することである。【方法】対象は2005年12月~2011年4月までに当院にて反復性膝蓋骨脱臼と診断されハムストリングス腱を用いたMPFL再建術を施行した患者で術後12ヶ月まで経過が確認出来た20例20膝(男性3例3膝、女性17例17膝)とした。年齢22.6(12-42)歳、身長161.1±6.5cm、体重57.1±8.2kgであった。診療記録より定期診察時の膝関節屈曲角度、完全屈曲獲得日数、apprehension sign、再脱臼の有無を抽出した。抽出した項目から膝関節屈曲角度の推移、膝関節完全屈曲獲得日数の平均値を基準とした2群間での膝関節屈曲角度の比較及びapprehension sign陽性例と再脱臼の発生件数について検討した。膝関節屈曲角度の推移は術後1・2・3・4・6・8・10・12ヶ月での推移を一元配置分散分析の後Games-Howellの多重比較にて比較検討を行った。膝関節屈曲角度の比較は平均日数よりも完全屈曲獲得日が早期であった群(獲得早期群)と遅延した群(獲得遅延群)に分類し、可動域回復期とされる術後2・4・6・8・12・16週における膝関節屈曲角度について時期と群の2要因による二元配置分散分析の後Mann-WhitneyのU検定を用いて比較検討を行った。また術後12ヶ月におけるapprehension sign陽性例と再脱臼の発生件数を2群間で比較検討した。統計学的処理にはSPSS ver12を使用し有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究では診療記録使用にあたり対象者に対して倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを説明し同意を得ている。また個人情報の取り扱いには十分に配慮し行った。【結果】膝関節平均屈曲角度は1ヶ月74.8°、2ヶ月118.3°、3ヶ月134.0°、4ヶ月137.8°、6ヶ月145.0°、8ヶ月146.5°、10ヶ月147.5°、12ヶ月148.3°であった。1ヶ月に対しては全ての時期で有意に高値を示し、2ヶ月に対しては3ヶ月以外の時期で、3ヶ月に対しては4ヶ月・6ヶ月以外の時期で有意に高値を示した。4ヶ月以降は全ての時期で有意差をみとめなかった。膝関節完全屈曲獲得平均日数は177.4日であり、これを基準とし獲得早期群10名10膝と獲得遅延群10名10膝に分類した。各群の膝関節平均屈曲角度はそれぞれ獲得早期群・獲得遅延群の順で2週58.5°・46.0°、4週80.5°・69.0°、6週104.5°・93.5°、8週125.0°・111.5°、12週141.5°・126.5°、16週148.5°・127.0°であり12週及び16週において獲得早期群が有意に高値を示した。術後12ヶ月におけるapprehension sign陽性例及び再脱臼発生件数は両群とも0件であった。【考察】本研究の結果、膝関節屈曲可動域は術後4ヶ月まで有意に改善し術後12ヶ月の膝関節屈曲角度は148.3°と緒家らの報告と同様に良好な回復であった。また群間比較では12週及び16週において獲得早期群の膝関節屈曲角度が高値であった。MPFLの長さは膝関節屈曲0°から60°にて長くなると報告されており、膝関節屈曲可動域の早期アプローチは膝蓋大腿関節の不安定性を発生させることが懸念されるが、獲得早期群における術後12ヶ月apprehension signは全例陰性であり再脱臼も発生していないことから、膝関節屈曲可動域の獲得が早期であっても膝蓋大腿関節の不安定性に対する影響は少なく早期からのアプローチが可能であると考える。【理学療法学研究としての意義】MPFL再建術後における膝関節屈曲可動域の推移に関しては一定の見解を得られてない為、術後理学療法において膝関節屈曲可動域の目標設定が困難であるが、可動域の推移を詳細に検討した本研究の結果は膝関節屈曲可動域アプローチにおける目標設定の一助となることが示唆される。
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© 2013 日本理学療法士協会
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