理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-04
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セレクション口述発表
半月板損傷の合併は膝前十字靱帯再建術後の膝固有感覚の回復に影響する
福原 幸樹平田 和彦河江 敏広島田 昇日當 泰彦松木 良介對東 俊介雁瀬 明折田 直哉西川 裕一植田 一幸伊藤 義広木村 浩彰越智 光夫
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抄録

【はじめに、目的】 膝前十字靱帯(ACL)は,スポーツ活動で損傷され,膝関節不安定性を引き起こす.ACL損傷には,半月板損傷が高率に合併し,その割合は39-65%と報告されている.半月板損傷の合併がACL再建術後の膝機能回復にどのように影響するかについて,膝不安定性と筋力の経過に関しては多く報告されている.近年,ACL再建後の膝固有感覚に関して報告がなされているが,半月板損傷合併例の膝固有感覚についての報告は少ない.本研究の目的は,半月板損傷を合併したACL損傷患者の膝固有感覚,不安定性,筋力をACL単独損傷患者と比較し,術前と術後の変化を検討することとした.【方法】 対象は2009年8月~2011年7月までに当院でACL再建術を行い,術後1年までリハビリフォロー可能であった28例とした.対象の内訳は,ACL再建術に半月板修復術を追加した群(ACL+meni群)が13例(男性6例,女性7例,平均年齢21.2±7.8歳),ACL再建術のみを行った群(ACL群)が15例(男性6例,女性9例,平均年齢24.9±12.6歳)であった. 膝機能の測定として,固有感覚は当院で独自に開発した固有位置覚・運動覚測定装置(センサー応用,広島)を使用し,Shidaharaの方法を参考に運動覚の測定を実施した.測定条件は開始角度15°と45°,運動方向は伸展方向・屈曲方向で,角速度0.2°/sとし測定した.得られた値から,それぞれの開始角度と運動方向の平均反応時間の患健差を算出した.膝不安定性は,Kneelax3(Monitored Rehab社製,Netherland)を使用して,30pound牽引時の脛骨前方移動量を測定し,患健差を算出した.筋力はBiodex System3(Biodex社,USA)を用いて,60°/sでの等速性膝伸展・屈曲筋力を測定し,最大トルクの患健比を算出した.各膝機能の測定時期は術前と術後12ヶ月で測定した. 統計解析にはPASW18(SPSS社,日本)を使用した.術前の各膝機能の群間比較にMann-Whitneyの検定を用い,術前と術後12ヶ月の各膝機能の比較にwilcoxonの符号付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究では,世界医師会による「ヘルシンキ宣言」を遵守し行った.また,本研究に参加するにあたり研究の趣旨について十分な説明を行い,同意が得られた症例を対象とした.【結果】 固有感覚の患健差について,ACL群は,開始角度45°からの屈曲方向で術前4.88±5.63秒,術後12ヶ月2.17±2.38秒と有意な差を認めた(p<0.05).ACL+meni群は術前と術後12ヶ月の固有感覚に有意な差を認めなかった.膝不安定性は,ACL群で術前5.53±3.21mm,術後12ヶ月1.17±2.81mm,ACL+meni群で術前4.65±2.30mm,術後12ヶ月1.02mm±2.16で両群ともに術前後で有意な差を認めた(p<0.05).膝伸展筋力の患健比は,ACL群で術前37.0±16.0%,術後12ヶ月17.8±13.6%,膝屈曲筋力の患健比が術前30.3±16.7%,術後12ヶ月14.8±16.9%で術前後と比較し膝伸展・屈曲筋力それぞれに有意な差を認めた(p<0.05).ACL+meni群は術前26.4±18.0%,術後12ヶ月19.0±17.7%,膝屈曲筋力の患健比が術前13.8±29.6%,術後12ヶ月13.8±17.7%で術前後と比較し膝伸展・屈曲筋力それぞれに有意な差を認めなかった.また,ACL群とACL+meni群の群間において術前の膝不安定性,筋力,固有感覚に有意な差を認めなかった.【考察】 今回の結果より,ACL単独損傷者は術前と術後12ヶ月を比較して膝固有感覚,不安定性,筋力の全てに有意な改善を認めたが,半月板損傷合併例においては膝不安定性の改善を認めたものの,固有感覚,筋力の改善を認めなかった.ACL再建術後の固有感覚の回復に関する報告は多くなされている(Iwasa 2000,Shidahara 2011)が,半月板損傷を合併したACL再建術後の膝固有感覚の検討は,ほとんどない.今回,半月板損傷合併例の関節固有感覚に回復を認めなかった理由として,半月板内のメカノレセプターが損傷したことで固有感覚機能が損なわれたことが考えられる.Al-Dadah(2011)は術後約1年で半月板切除例において固有感覚の低下を報告しており,半月板損傷を合併したACL再建術後の固有感覚の回復にはより長期間を要する可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 半月板損傷合併例では術後の固有感覚の回復により焦点を当てた運動療法の構築が必要な可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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