抄録
【はじめに、目的】 患者満足度やQOL(Quality of life)向上は、医療に携わる者の課題となっており、客観的評価と併せて様々な患者立脚型評価が行われている。肩関節疾患においても患者立脚肩関節評価法Shoulder36V.1.3が使用され、調査結果が散見されるようになってきた。そこで今回、治療時間を要する肩関節腱板断裂に着目し、退院時アンケート調査を行い、アンケート結果と肩関節機能、術中所見などの客観的な指標との関係性を調査し、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は、当院にて2011年9月から2012年4月までの期間に腱板修復術を施行し、退院時アンケートを回収できた30例30肩とした。内訳は男性22名(平均年齢60.1±11.4才)、女性8名(平均年齢61.8±6.5才)であった。アンケート内容は術後リハビリテーションの内容や実施時間、スタッフ対応、病院内での生活満足度と夜間睡眠状態、鎮痛剤服薬状況、入院中自主練習時間などを調査した。アンケートは記名ありで医療関係者の面前を避け、回答を得た。その内、A夜間睡眠状態を夜間睡眠良好群(以下良好群)、不良群の2群に分類、B鎮痛剤内服状況を内服あり群(以下あり群)、内服なし群(以下なし群)に分類、C自主練習時間を15分以上群、15分以下群で分類し、A,B,Cの各分類で退院時日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下退院時JOA)、退院時疼痛Visual analogue scale(以下退院時VAS)、退院時肩関節自動挙上角度と他動挙上角度、術中所見として腱板断裂サイズ、腱板縫合角度との関係性を調査した。有意差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いて有意水準5%で処理した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言のもとに実施し、アンケート参加者には調査目的と方法を十分に説明し同意を得た。【結果】 A夜間睡眠状態では、良好群は22名、退院時JOAは平均50.3±15.0点、不良群は8名で平均54.9±7.5点。退院時VASは良好群4.0±2.3、不良群5.1±2.8。退院時自動挙上は良好群120.3±37.4度、不良群122.1±40.4度。他動挙上は良好群155.8±11.0度、不良群154.3±13.0度。断裂サイズは良好群3.3±1.9cm、不良群2.3±0.8cm。縫合角度は良好群16.8±10.0度、不良群11.3±11.0度であった。2群間での有意差は認められなかった。B鎮痛剤内服状況ではあり群は18名で退院時JOAは平均49.9±13.5点、なし群は12名で平均54.1±13.6点であった。退院時VASはあり群4.9±2.4、なし群3.4±2.3。退院時自動挙上はあり群122.3±36.1度、なし群118.3±41.6度。他動挙上はあり群154.0±11.9度、なし群157.5±10.6度。断裂サイズはあり群2.4±0.9cm、なし群4.1±2.3cm。縫合角度はあり群14.4±10.4度、なし群16.7±10.7度であった。断裂サイズのみ有意差が認められた。(p<0.05)C入院中自主練習時間では15分以上群21名で退院時JOAは平均50.2±12.6点、15分以下群は55.0±16.0点であった。退院時VASは15分以上群4.7±2.5、15分以下群3.4±2.0。退院時自動挙上は15分以上群122.0±37.5度、15分以下群118.0±40.0度。他動挙上は15分以上群157.1±11.2度、15分以下群150.7±11.0度。断裂サイズは15分以上群3.4±1.8cm、15分以下群2.1±1.1cm。縫合角度は15分以上群15.7±10.0度、15分以下群14.4±11.0度であった。断裂サイズのみ有意差が認められた(p<0.05)。【考察】 今回の結果では、鎮痛剤内服状況、自主練習時間において断裂サイズの有意差は認められたが、退院時VASは平均値の差が認められたものの有意差は認められなかった。断裂サイズが小さいと、退院時VASが高い傾向にあり、睡眠状態や鎮痛剤使用に影響していた。また断裂サイズが大きいと、退院時VASが小さく、睡眠状態良好で鎮痛剤も未使用が多い傾向となった。腱板断裂術後リハビリテーションにおいて、患者満足度向上には疼痛管理と早期機能回復が必要であると考える。今回、アンケートを介して患者主観評価と医療者側の客観的評価の関係性を調査し、患者主観評価への影響が考えられる疼痛に関しては平均値の差は認められたものの、統計学的有意差は認められなかった。しかし断裂サイズが睡眠状態、鎮痛剤内服状況に関与することは認められ、腱板の質的状態が術後リハビリテーション経過や患者主観評価に影響することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 患者立脚型評価と客観的評価を比較することは、患者ニーズを確認し、患者満足度向上を図るため重要であるとともに、術後成績に関与する因子分析の一助となることも示された。