抄録
【はじめに】肩関節疾患において、肩甲上腕関節の拘縮並びに腱板筋やアウターマッスル等の筋機能低下、また肩甲帯の不良肢位など様々な複合的要因で肩関節機能障害を呈する。そしてこれらの障害の内、腱板筋を中心とした筋機能低下に対し、Redcordを用いたCKC運動をする事で、その効果を検証した。【方法】対象は、有痛性肩関節疾患19名(肩関節周囲炎15名:右肩6名/左肩9名・左腱板損傷3名・右鎖骨骨折後拘縮1名)、男性9名(平均年齢60.3±10.2歳)、女性10名(平均年齢61±7.63歳)。Redcord exercise(以下RCEと示す)によるCKCの方法は、サスペイションポイントとスリングポイントは、直線的な位置関係にし、対象者の可動性を考慮して肩関節90°屈曲の四つ這位とした。そして徒手的にセラピストが前後左右に5Hz程度の振動刺激を加え、5秒間4回1セットとし4セット施行した。エクササイズ効果判定方法では、1:VAS、2:患側肩関節自動可動域テスト(屈曲・外転・55°外転位での内外旋)。3:肩関節周囲筋筋力テスト:ハンドヘルドダイナモメーター(日本メデックス社製)使用し坐位で両側肩甲骨外転筋・肩屈筋・外転筋・55°外転位での内旋/外旋筋、また立位にて肩外転約30°での棘上筋筋力を2回測定し最大値を採用。また単位は、トルク体重比Nm/kgとして数値の補正を行った。以上の評価を四つ這位でRCEと四つ這位エクササイズ(以下四つ這位Exと示す)とし、同一対象者に運動前後測定した。なお測定日は別日に行った。また統計処理は、対応のあるWilcoxon符号付順位和検定で危険率5%未満を有意差とした。【説明と同意】被験者には、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨を説明し、同意を得た症例を抽出した。【結果】1.VAS:RCEでは、平均4.4±1.4から3.4±1.6となり、四つ這位Exでは、平均3.8±1.7から3.3±1.7と、共に疼痛軽減認めたが、RCEの方がより有意(p<0.01)に疼痛軽減した。2.肩関節自動可動域テスト:運動前後の可動域結果では、RCE屈曲運動前143.2±10.2°、運動後147.7±11.5にて屈曲4.5°、外転6.1°、外旋6°と可動域が拡大し、特に内旋では、運動前43.1±16.9°から運動後50.1±16.6°と可動性の改善を見た。しかし四つ這位Exでは、外転と外旋では、2°程度可動域の改善を見たものの屈曲、内旋に関して有意差は無かった。3.肩関節周囲筋筋力テスト:運動前の筋力を100%として運動後筋力の変化率は、RCEでは平均109~121.7%で、その中でも特に棘上筋は121.7±16.4%で内旋筋118.6±16.8%、肩外転筋117.2±13.3%と即時的に筋力の数値が高い傾向であった。次に四つ這位Exでは、平均100~106.2%の筋力増加を見たが、2群間で有意差を認め、RCEの方がより筋力向上を示した。また患側、健側において各筋群の運動前後の有意差を見た結果。RCEでは、運動後患側・健側共に数値が高くなり有意差を見たが、四つ這位Exでは、患側外旋筋、肩甲骨外転筋、健側内旋筋に有意差を認めたものの、他の筋群では有意差はなかった。【考察】RCEによる四つ這い位では、サスペイション並びにスリングポイントが肩関節から手掌へと直線的となり、その反力を受けとめるには、骨頭を中心に関節窩が安定した位置でなければ肢位保持困難と推察される。このことは四つ這位での肢位にて行う事は、アウターマッスルと協調して肩甲下筋や棘上筋などの腱板筋が骨頭に対し、求心力として作用し上腕骨内旋位をとり、その結果肩甲骨が前鋸筋の活動と共に外転位に誘導され、この肢位を安定させる。次にred cordでのCKCでは、吊るしたロープの末端で主に支持するため、両上肢は不安定な状況下にて手掌から肩関節・肩甲帯・体幹と力学的運動連鎖が発生し、且つ振動刺激を入れることで、より固有受容器が刺激される。これらの外乱入力にて、筋紡錘がより活性化され、肩甲帯筋群や肩関節周囲筋群特に内旋筋や外転筋の即時的筋力向上や可動域改善となった。このことは、特に肩関節内旋の可動性が改善された事で考えて見れば、棘上筋や肩甲下筋の筋収縮が引き起こされると、骨頭が内旋方向の転がりを促し、また外旋筋である棘下筋や小円筋の筋収縮にて骨頭の後方への滑りを誘発し、上腕骨頭を関節窩に安定させ、骨頭偏位を制御し、運動軸がより中心化され、内旋を始めとして肩関節の可動性拡大に繋がったのではなかろうか。しかしすべての肩関節疾患に適応があるわけでなく、当然個々の肩関節機能を考慮して判断しなければ、関節圧縮による関節内の病変増悪や筋の過緊張を引き起こす要因にも成るため、エビデンスに基づいた肩関節機能評価や治療を行った上で、適応を見極め施行する事が重要である。【理学療法学研究としての意義】腱板機能低下を主症状とする肩関節機能障害に対するアプローチとして、Redcordの有用性が示唆された。