理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-04
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セレクション口述発表
歩行における下肢筋活動量,筋協調性の変化がエネルギー代謝に及ぼす影響
鈴木 啓介西田 裕介
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抄録

【はじめに、目的】高齢者における歩行持久力の低下はADL機能を低下させるとともに死亡率や疾患罹患率を増加させることが報告されている。歩行持久力は生体内の糖質量により制限されており,歩行持久力の向上には,糖質の消費を抑え,脂質を効率良く使用する必要がある。糖質はタイプⅡ線維にて代謝され,脂質はタイプI線維にて代謝される特徴を持ち,筋によってタイプ線維の含有量が異なる。つまり,糖質の消費を抑え,歩行持久力を向上させるためには活動させる筋を柔軟に変更する必要があると考える。また,筋の活動量は筋の協調性の変化によって影響を受けることから,代謝,筋活動量,筋協調性は密接に関係性しているものと考える。そこで今回,エネルギー代謝が変化する要因を筋活動量,筋協調性との関係性から明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健常成人男性12 名とした。プロトコルは安静座位5 分,時速4.5km/hでの練習歩行5 分行い,同速度にて90 分間の歩行を実施した。代謝の分析には呼気ガス分析装置を使用し,呼吸交換比(以下RER)を算出した。筋協調性と筋活動量の分析には表面筋電図を使用し,前頸骨筋,内側腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,中殿筋を対象筋とした。筋活動量の指標として筋積分値を算出した。また,歩行を構成する7 筋の協調性の指標として,主成分分析にて因子負荷量を算出した。さらに同関節駆動に携わる下腿三頭筋や大腿四頭筋などの解剖学的筋グループの協調性の指標として,主成分分析によって得られた因子負荷量より同符号である筋の寄与率を用いた。統計処理はRERにおいて有意に変化した時間を同定するために10 分毎のデータに対しTukeyの多重比較検定を行った。また各指標の関係性を明らかにするために,歩行開始10 分から90 分までの各指標の変化量に関してPearsonの積率相関分析を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の趣旨,目的,測定内容を口頭にて説明し,書面にて同意を得た。また,本研究は聖隷クリストファー大学の倫理審査委員会に報告し,承認を得てから研究を実施した(認証番号:11046)。【結果】呼吸交換比は歩行開始10 分間から時系列的に0.847 ± 0.036,0.848 ± 0.038,0.827 ± 0.031,0.820 ± 0.034,0.812 ± 0.032,0.810 ± 0.033,0.808 ± 0.031,0.805 ± 0.030,0.803 ± 0.028 となり,歩行開始10 分と歩行開始90 分に有意な差が認められた(p<0.05)。RER変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では有意な正の関係を認めた(r=0.58,p<0.05)。また,RER変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な正の関係を認めた(r=0.631,p<0.05)。7 筋による協調性では歩行10 分,歩行90 分ともに構成要素は3 であった。因子負荷量では歩行開始90 分にて内側広筋,ヒラメ筋で増加する傾向を認めた。大腿四頭筋寄与率の変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では関係性が認められなかった。(r=-0.546 p=0.066)。一方,下腿三頭筋寄与率の変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な負の関係性が認められた(r=-0.632 p<0.05)。【考察】本研究においてRERは時系列的に低下し,外層筋筋積分値の変化量とRER変化量に有意な正の相関関係を認めた。外層筋はタイプⅡ線維含有量が多いことが報告されており,外層筋の活動量が低下したことで糖代謝が制限されたと考えられる。また,7 つの筋協調性の結果から,90 分の歩行において他の筋からの協調的な関与は低く,解剖学的筋グループ内での協調性の変化が筋活動量に影響を与えていることが確認された。さらに,下腿三頭筋寄与率の変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な負の関係性が認められた。この結果から,解剖学的筋グループの協調性を亢進させ,歩行に必要な筋出力を相補的に補うことで外層筋の活動量を低下させたと考えられる。しかし,大腿四頭筋寄与率の変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では関係性が認められなかった。この理由として筋の収縮特性が考えられる。大腿四頭筋は中間広筋を中心に内層の3 筋が協調して活動することが明らかになっており,本研究においても内層筋の協調性が亢進したと推察され,大腿直筋の活動量との間に関係を示さなかったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より筋の協調性の変化によって糖代謝を優位に行う外層筋の活動量を低下させ,歩行時の糖を節約できる可能性が示唆された。理学療法場面において低栄養の高齢者や糖尿病など糖を効率良く使用出来ず歩行持久力が低下している患者に対して,筋の協調性に着目することで,歩行持久力改善を目的とした運動処方の立案に寄与できると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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