理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-11
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一般口述発表
ボツリヌス療法と理学療法により歩容と歩行速度が改善した一症例
小山内 良太鵜飼 正二久保村 竜輔野崎 惇貴原 寛美
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抄録
【はじめに、目的】 ボツリヌス療法(以下BTX)は脳卒中治療ガイドライン2009において、痙縮に対する治療として推奨グレードAとされている。2010年10月より中枢神経疾患による上肢痙縮、下肢痙縮に対する使用が承認された。相澤病院では、2012年5月より下肢痙縮に対するBTXを開始し、BTXに併せ、1~2週間の入院による理学療法(以下PT)を行なっている。今回、発症より6年以上経過した脳出血後遺症患者に対して、麻痺側上下肢へのBTXと2週間のPTを行い、歩容と歩行速度の改善を認めたので、考察と今後の課題を加えて報告する。【方法】1、症例紹介 60代男性、2005年左視床出血発症、右片麻痺を呈し、急性期・回復期病院でのリハビリテーション(以下リハ)を行い、歩行は杖なしでクレンザック足継ぎ手の支柱付き短下肢装具を使用して自立し、6ヶ月後に自宅復帰された。当院入院前の生活状況としては、装具がプラスチック短下肢装具に変更され、ADLは入浴以外自立。リハと入浴のため週3回のデイケアを利用されていた。2012年、発症から6年10ヶ月後にBTXを希望され当院リハ科を受診し、麻痺側上下肢へのBTXとリハを目的に2週間入院した。2、入院時評価 上田式12段階片麻痺機能テスト(以下12グレード)右上肢9手指5下肢8、足関節背屈可動域(右/左)-5°/5°、modified Ashworth Scale(以下mAS)右下腿三頭筋2、徒手筋力検査(以下MMT:右/左)腸腰筋5/5、大腿四頭筋5/5、前脛骨筋3/5、中殿筋4/5、ハムストリングス3+/5、下腿三頭筋2+/4、Fugel-Meyar Assessment(以下FMA)下肢項目28/34点、10m歩行17.94秒(歩数25歩)、Timed Up and Go Test(以下TUG)23.62秒であった。歩容の分析には川村義肢製のGait Judge systemを用いて、歩行時の足関節底屈トルクを測定し足部のロッカー機能を評価した。荷重応答期底屈トルクの平均は2.1Nm、前遊脚期底屈トルクは0Nmであった。麻痺側立脚期ではExtension Thrust patternとトレンデレンブルグ徴候を認めた。麻痺側遊脚期でのクリアランスは良好であったが、足部の内反を認めていた。3、BTX施行筋(単位:U) 上腕二頭筋50U、橈側手根屈筋25U、尺側手根屈筋25U、浅指屈筋50U、深指屈筋25U、長母指屈筋25U、腓腹筋内側25U、腓腹筋外側25U、ヒラメ筋50U、前脛骨筋50U、上下肢合計350U施行した。4、PTアウトカム 本人からの主訴も踏まえ、歩容の改善(ロッカー機能の再獲得、Extension Thrust patternの改善、トレンデレンブルグ徴候の改善)と歩行速度の向上を目標とした。5、PTプログラム(PT3単位/日、13日間) 治療的電気刺激、下腿三頭筋ストレッチ、麻痺側下肢筋力強化などを中心に行った。また、ロッカー機能の再獲得と歩行速度の向上を目的にトレッドミル歩行(2.0~2.7km/h、傾斜0~5°)を行った。主治医よりGait Solution Design (以下GSD)作製の指示があり、装具変更を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例には、個人情報を削除した上で症例報告をさせていただく主旨を説明し、同意を得た。【結果】 退院時評価では、下肢12グレード、MMT、FMAについては変化を認めなかった。 改善を認めた項目は、足関節背屈可動域0°/5°、mAS右下腿三頭筋1+、10m歩行14.69秒(歩数21歩)、TUG16.62秒であった。Gait Judge systemでは、荷重応答期底屈トルクの平均は3.1Nm、前遊脚期底屈トルクは0.6Nmであった。また、麻痺側立脚期でのExtension Thrust patternは改善したが、トレンデレンブルグ徴候は残存した。麻痺側遊脚期での足部の内反は改善を認めた。【考察】 BTX前と同様の歩容のままでは痙縮の増悪が懸念されるため、歩容の改善を図ることが重要であると考えた。本症例では、Gait Judge systemで前遊脚期底屈トルクがわずかながら出現し始めており、歩容改善のきっかけとなったと考えられる。その要因として、BTXとPTにて足関節背屈可動域と下腿三頭筋の痙縮改善により、足関節背屈位をとりやすくなったこと、ロッカー機能を発揮できるGSDへ装具改変を行ったこと、PTプログラムとして傾斜でのトレッドミル歩行にて前遊脚期でのStretch shortening cycleを促したことが効果的であったのではないかと考えた。また、10m歩行、TUGの改善を認めたが、トレッドミルにて通常の歩行速度以上のペースでの歩行練習を行ったことも、最大速度を引き上げた要因ではないかと考えられた。 一方、BTXの効果は漸減してくるとされているため、今後の課題としては入院でのPT後の機能維持・改善をどう図るかという点が挙げられる。本人への自主トレーニング指導や在宅リハスタッフへの情報提供など、一貫したアプローチを継続していく事が重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 慢性期の脳卒中患者であっても、BTXとPTや装具療法によって更なる機能改善、歩容・歩行速度の改善が望めることが示唆された。
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© 2013 日本理学療法士協会
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