抄録
【はじめに、目的】我が国の高齢化率は上昇を続け,平成23年には過去最高の高齢化率23.3%となり,世界に類をみない速度で超高齢社会に突入した.この高齢化に伴い,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)に入院する脳卒中患者の高齢化も進み,回復期リハ病棟においても超高齢(85歳以上)の脳卒中患者が多くみられるようになった.しかし,臨床現場における超高齢脳卒中患者は,機能回復の遅延,介護する側の高齢化も重なり,回復期リハ病棟から転帰先を決める上で難渋するケースが多くみられている.そこで今回我々は,機能的自立度評価表(Functional Independence Measure;以下,FIM)を中心に用いて,当院回復期リハ病棟に入院した超高齢脳卒中患者の自宅復帰を可能にするADL条件の検討をすることを目的とした.【方法】対象は,2009年4月から2012年3月までに,当院回復期リハ病棟を退院した85歳以上の初発脳卒中患者で転帰先が自宅(有料老人ホーム等を除く)もしくは施設・療養病床(以下;施設)となった49例(自宅退院者25例,施設退院者24例)とした.方法は,自宅もしくは施設の転帰先を目的変数とし,退院時FIM各18項目得点とFIM各合計得点(運動項目合計点、認知項目合計点,総合計点),FIM利得を説明変数として2群間比較を実施した.さらに,退院時のFIM運動項目(FIM Motor Item;以下,FIM-M)合計点あるいはFIM認知項目(FIM Cognitive Item;以下,FIM-C)合計点から転帰先を予測するため,受診者動作特性曲線(receiver operating characteristic;以下,ROC曲線)を用いて退院時FIM得点のカットオフ値を算出した.統計解析には,Mann-WhitneyのU 検定を用いて2群間比較を行い,最適なカットオフ値の算出は,ROC曲線上で最も左上(1-特異度=0,感度=1)に近いポイントとして求めた.全ての統計処理の有意水準は5%とし,解析処理ソフトにはPASW Statistics 18.0 for Windowsを使用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,当法人における倫理審査委員会の承認(承認番号24011)を得て実施した.【結果】超高齢脳卒中患者における自宅退院者と施設退院者の2群間比較では,退院時FIM得点において,FIM各18項目得点,FIM-M合計点,FIM-C合計点,FIM総合計点の全項目で自宅退院者と施設退院者の間に有意な差が認められた.しかし,FIM利得では,FIM18項目におけるトイレ動作,排便,トイレ移乗,階段昇降,問題解決と,FIM-M利得,FIM利得にのみ自宅退院者と施設退院者の間に有意な差が認められ,他の項目では有意な差が認められなかった.また,ROC曲線における転帰先を予測する退院時FIM得点のカットオフ値の算出では,FIM-M合計点のROC曲線が最も左上にあるポイントは感度80%,特異度75%の時であり,この時のカットオフ値は40点(ROC曲線下面積:0.858,95%信頼区間:0.754-0.963)であった.一方,FIM-C合計点では,ROC曲線が最も左上にあるポイントは,感度80%,特異度75%の時であり,この時のカットオフ値は16点(ROC曲線下面積:0.814,95%信頼区間:0.690-0.938)であった. 【考察】脳卒中患者のADLレベルは転帰先を規定する中心的因子であると報告されている(二木 1983).本研究の超高齢脳卒中患者においても,ADLレベルを示す退院時FIM得点は施設退院者に比べて自宅退院者の方が有意に高値であり,退院時FIM得点は超高齢脳卒中患者の自宅退院にも重要な因子であることが示唆された.FIM利得では,主に運動機能の向上がみられ,FIM-M利得,FIM利得は,施設退院者に比べて自宅退院者の方が有意に高値であった.特に,排泄に関する項目では,施設退院者に比べて自宅退院者の能力が有意に向上しており,先行研究においても自宅復帰にはトイレ移乗能力が大きく関与するとされている(梅本ら 2008).このため,療法士は,回復期リハ病棟入院早期から超高齢者脳卒中患者の排泄に関する能力の向上に努めることが重要であると考えられた.また,超高齢脳卒中患者の転帰先を予測する退院時FIM得点のカットオフ値は,FIM-M合計40点(感度80%,特異度75%),FIM-C合計16点(感度80%,特異度75%)とこれまでの報告と比べて低値であったが,先行研究では,退院時のFIM-M合計点が40点以上の場合,介助量からみて自宅復帰の可能性が高まるとも報告されている(辻ら 1996).これらの結果より、回復期リハ病棟に入院した超高齢脳卒中患者の自宅復帰を可能にするADL条件として,早期から排泄に関する能力の向上に努めること,そして,退院時FIM-M合計40点以上,退院時FIM-C合計16点以上を目指すことが重要であることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】85歳以上で超高齢の脳卒中患者は,回復期リハ病棟から転帰先を決める上で難渋するケースが多くみられているが,これまで超高齢に限定した報告は少なかった.今回の報告は,超高齢脳卒中患者が回復期リハ病棟から自宅復帰を目指す上での一つの指標になるのではないかと考えられた.