抄録
【はじめに、目的】進行した変形膝関節症(以下OA膝)に対しては人工膝関節全置換術(以下TKA)が広く行われている。しかし、TKA後に膝部痛は改善しても足部痛を訴えたり、早期の歩行能力が十分改善しなかったりする症例をしばしば経験する。よって本研究では、TKA前後の足圧分布を比較して手術前後の足圧分布の変化を明らかにし、術後の足部痛を訴えた例の足圧分布に特徴がないかを明らかにすることを目的とした。【方法】両側のTKAの予定となった両側性OA膝患者さんのうち、杖なしで20 m以上の歩行が可能であった22例44膝(男性2例、女性20例、平均年齢76歳)を対象とした。44膝中14膝はKellgren & Lawrence分類でグレード3、18膝がグレード4、12膝がグレード5であった。理学的評価と種々の計測はTKA前(以下術前群)と、術後に独歩が可能となりADLが自立した時点(術後群)で行った。測定には足圧分布解析システムF-scanを用い、快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を3回計測し、その平均値を求めた。歩行路は10mとし前後に各3mの助走路を設けた。足圧は足底を踵部、足底中央部、中足骨部、母趾部、足趾部に細分し、それぞれの部位の足圧の体重に対する比(%PFP)を求めた。足圧中心軌跡からは、前後径の足長に対する比(以下%Long)と、前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を算出した。また足長に対する舟状骨の高さの比(アーチ高率)を求めた。術前群と術後群間全体の統計学的分析には対応のあるt検定を用いた。足部痛がみられた例の術前後に比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について十分な説明し、所定の書面にて研究参加の同意を得た。【結果】術前群では16肢に足部痛が認められた。この16名中10例では術後も足部痛が認められた。膝関節の平均ROMは術前群-5~130度、術後群は0~130度であった。部位別の%PFPは、踵部(54.9±23.2% vs 64.3±19.2%, p=0.0094)、母趾部(2.1±2.3% vs 22.0±7.6%, p<0.001)、足趾部(2.5±3.0% vs 4.8±3.7%、p<0.001) で術前群に比べ術後群が有意に高値であった。一方、足底中央部では術前群71.8±28.1%に比べ、術後群31.1±13.8%で有意に低値であった(p<0.001)。%Longは、術前群の48.4±5.5%に比べ、術後群が57.0±5.4%で有意に高値であった(p<0.001)。%Transとアーチ高率は術前群と術後群で有意な差が見られなかった。術前に足部痛があり術後に痛みが消失した7例では、術前に比べ術後で、踵部の%PFP (59.7±25.5% vs 72.1±20.3%, p=0.0098)、母趾部の%PFP (1.8±2.1% vs 4.4±3.4%、p<0.00)と%Long (50.4±7.1% vs 60.5±4.7%, p<0.01)が有意に高値となっており、足中央部の%PFPが有意に低値となっていた(81.6±27.5 vs 23.6±7.8%, p<0.001)。一方で術後も足部痛が改善しなかった9例では術前、術後間で足圧分布に有意な変化は見られなかった。TKAを要するような変形性膝関節症患者では健常者の足圧分布と異なり、踵部の足圧が低く、足圧中心軌跡が短くなるのが特徴とされている。今回TKAの前後で比較すると、TKA前に比べ歩行時に踵部と足趾にかけての荷重が増加し、足圧中心軌跡の前後長も長くなり、健常者の足圧分布パターンに近づいていた。特に術前の足部痛が術後に改善した例では足圧分布が健常者と類似のパターンへ改善していたが、足部痛が術後も残存していた例では、術前後の足圧分布に変化がみられなかった。TKA術後もアーチ高率は変化がなく、%Transにも改善が明らかでないなど、変形性膝関節症に伴う足部変形は残存していることが足部痛の残存に関連していると思われた。【理学療法学研究としての意義】足圧分布解析による評価指標は多様であるが、分析方法を工夫することで一般にも分かりやすく説明することが可能である。TKA前後の治療に足圧解析を用いることで変形性膝関節症自体の病態の解明だけでなく、術後の足部痛に対しても有用な情報が得られ、より効率的で新たなTKA前後のリハビリテーションが実現できることが期待される。