理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-04
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セレクション口述発表
高齢者における膝関節伸展制限が歩行時の膝関節に及ぼす生体力学的影響
中山 善文金井 章長尾 恵里福島 恭平杉浦 紳吾谷口 裕樹田口 大樹辻 貴泉渡邊 貴美米川 正洋
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抄録
【はじめに、目的】 レントゲンで診断可能な我が国の変形性膝関節症(以下、膝OA)患者は2530万人に及び、多数の高齢者が膝OAに罹患していると推測されている。高齢者は膝関節屈曲位の立位をとりやすく、これは靭帯や骨による支持性が減少するため、膝OAの発症や進行に影響すると考えられる。本研究の目的は、高齢者における膝関節伸展制限(以下、伸展制限)の有無が歩行時の膝関節へ及ぼす生体力学的影響を検討することである。【方法】 対象は膝OAと診断され、アメリカリウマチ学会による膝OAの臨床診断基準を満たす膝OA群9名9膝(平均年齢75.4±7.8歳)と膝関節痛がなく同基準を満たさない高齢者29名29膝とした。高齢者においては立位時の膝関節伸展角度(以下、伸展角度)を計測し、5°以上の伸展制限がある者を制限あり群(平均年齢73.2±6.2歳、平均伸展角度-9.0±2.9°、10名)、ない者を制限なし群(平均年齢74.5±5.1歳、平均伸展角度-0.5±1.3°、19名)とした。以上の対象者に対して、Plug-In-Gaitのマーカーセットにて10mの自由歩行を、三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社製)と床反力計OR6-7(AMTI社製)を用いて計測した。得られた結果から歩行時の膝関節角度と外部膝関節モーメントを算出して、一元配置分散分析後、多重比較検定を行い3群の比較検討を行った。さらに立位時の伸展角度と歩行時の内反角度及び内反モーメント値をピアソンの相関係数を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されており、対象者へは研究の主旨を説明し、書面にて同意を得た。【結果】 歩行速度は、膝OA群1.01±0.02m/sec、制限なし群1.18±0.03m/sec、制限あり群1.20±0.03m/secであり、制限なし群、制限あり群と比較して膝OA群で有意に低値を示した(p<0.05)。歩幅は、膝OA群0.53±0.03m、制限なし群0.60±0.05m、制限あり群0.58±0.08mであり、制限なし群と比較して膝OA群で有意に低値を示した(p<0.05)。角度及びモーメントは立脚初期の最大値を代表値として、内反角度は膝OA群13.36±4.45°、制限なし群8.71±5.34°、制限あり群13.66±4.73°であり、制限なし群と比較して制限あり群で有意に高値を示した(p<0.05)。内反モーメントは膝OA群0.61±0.09Nm/kg、制限なし群0.52±0.18Nm/kg、制限あり群0.71±0.21Nm/kgであり、制限なし群と比較して制限あり群で有意に高値を示した(p<0.05)。屈曲モーメントは膝OA群-0.03±0.12Nm/kg、制限なし群0.04±0.17Nm/kg、制限あり群0.07±0.19Nm/kgであり、有意差は認めなかった。また伸展制限が大きいほど、内反角度(r=0.48、p<0.05)、内反モーメント(r=0.30、p<0.05)が増加した。さらに、内反角度が増加するほど内反モーメントも増加した(r=0.61、p<0.05)。【考察】 内反角度及び内反モーメントは制限あり群では制限なし群と比較して有意に高値を示し、伸展制限が大きいほど内反角度及び内反モーメントが増加した。その要因として、膝関節屈曲位では側副靭帯が弛緩し、その状態での荷重により内反角度が増加し、それに伴い内反モーメントが増加すると考えた。内反モーメントは膝関節内側コンパートメントに対する負荷の指標とされ、膝OAの発症や進行に影響すると報告されている。つまり伸展制限は膝OAの発症や進行に関与する可能性が示唆された。一方で、膝OA群は制限なし群と比較して有意差を認めず、歩行速度の低下、歩幅の狭小により膝関節内側コンパートメントへの負荷を減少させていると考えた。また、他関節で代償している可能性もあり、今後の検討課題である。以上より、膝OAの発症や進行の予防には伸展制限のない膝関節機能が重要であると考えた。膝OA群では膝関節内側コンパートメントへの負荷を減少させるため、歩行速度の低下などの運動機能低下が生じると考えた。また、一般的に生じるとされる立脚初期の屈曲モーメントが3群とも低値であり、高齢者は膝関節への負担を軽減させるために屈曲モーメントをコントロールしていると考えた。【理学療法学研究としての意義】 伸展制限が膝関節内側コンパートメントへの負荷の増加に関与することが示唆され、本研究が膝OAに対する予防や治療の一助になると考えている。
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© 2013 日本理学療法士協会
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