理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-19
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ポスター発表
複雑性の異なる手指対立運動の運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響について
前田 剛伸嘉戸 直樹鈴木 俊明
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抄録
【はじめに、目的】運動イメージは、随意運動が困難な患者に対して身体的な負荷を増加することなく、中枢レベルでの運動を反復できる有効な手段の一つとして考えられている。 我々は、健常者を対象に母指と示指の単純な手指対立運動の運動イメ−ジにより上肢脊髄神経機能の興奮性が増大することを報告した。また、最近の中枢神経機能に関する研究では、単純な手指対立運動に比べ、複雑な手指対立運動において補足運動野や感覚運動野の賦活する領域が増加すると報告されている。しかしながら、運動イメージの難易度の違いと脊髄神経機能の興奮性に関しての報告は見られない。そこで、本研究では複雑性の異なる手指対立運動の運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響についてF波を用いて検討した。【方法】対象は健常成人15 名(平均年齢25.8 ± 9.6 歳、男性11 名、女性4 名)とした。検査姿勢は背臥位とし、運動イメージ試行中は身体を動かさないように指示した。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて、安静時、右手指での各運動課題の運動イメージ試行中において右母指球筋より導出した。運動イメージ課題は、1Hzの頻度での複雑性の異なる3 種類の右手指の対立運動とした。 運動イメージ課題1(課題1)では、母指と示指の対立運動の運動イメージを連続して実施した。運動イメージ課題2(課題2)では、母指と他指との対立運動の運動イメージを、示指、中指、環指、小指の順で連続して実施した。運動イメージ課題3(課題3)では、母指と他指との対立運動の運動イメージを、示指、環指、中指、小指の順で連続して実施した。各運動イメージ課題はランダムに実施した。なお、実験終了後に各運動イメージ課題がどの程度想起出来ていたかを知る目的で、運動イメージ評価尺度であるJMIQ-Rを使用し、各課題に関して7 段階(1.とても難しい-7.とてもやさしい)でアンケート調査を実施した。F波導出の刺激条件は強度を最大上刺激、頻度を0.5Hz、持続時間を0.2msとして、右手関節部正中神経を連続30 回刺激した。記録条件として探査電極は右母指球筋の筋腹上、基準電極は右母指基節骨上に配置し、接地電極は右前腕部に配置した。F波の分析項目は振幅F/M比、出現頻度、立ち上がり潜時とした。統計処理にはフリードマン検定とwilcoxonの符号付順位検定を用いた。また、アンケート結果に関しても同様に比較を行った。有意水準は5% とした。【説明と同意】被験者には本研究の趣旨に加え、実験データは厳重に保管することなどを十分に説明し、同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお、本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】振幅F/M比は、安静時に比べて課題2 で有意に増加した(p<0.05)。出現頻度は、安静時に比べて課題1 と課題2 で有意に増加した(課題1;p<0.05,課題2;p<0.01)。しかし、課題3 は、安静時と比べて振幅F/M比と出現頻度には有意差を認めなかった。各課題のJMIQ-Rの平均点は、課題1 で6.13 ± 0.91、課題2 で5.26 ± 1.33、課題3 で3.46 ± 1.5 であった。課題3 は、課題1 と課題2 に比べ有意に低下した(p<0.01)。【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており、振幅F/M比、出現頻度は運動ニューロンの興奮性の指標の一つといわれている。 結果より課題1 において出現頻度が安静時と比較して有意に増加したことから、単純な手指対立運動の運動イメージは上肢脊髄神経機能の興奮性を増大させる可能性が示唆された。また、振幅F/M比は安静時と比べ課題2 においてのみ有意に増加したことから、課題1 に比べ複雑な運動イメージを要求する課題2 は上肢脊髄神経機能の興奮性をさらに増大させる可能性が示唆された。これに対し、課題3 では上肢脊髄神経機能の興奮性に有意差は見られなかった。この要因として、アンケート調査の結果から課題1 や課題2 に比べて、より複雑な運動イメージを要求した課題3 では運動イメージ自体を想起することが困難であった可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動イメージは、随意運動が困難な患者に対し身体的負荷を増加することなく、運動機能の改善を図る有効な治療手段の一つと考えられる。理学療法を行う際に、手指を動かす運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響について把握することは重要である。本研究により、単純な手指対立運動イメージに比べ、複雑な運動イメージにおいて脊髄神経機能の興奮性がより増加することが示唆された。しかし、複雑な運動イメージを行う際に、その運動イメージを想起することが難しい場合は、上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しない可能性が示唆された。個々における運動イメージ想起能力を考慮し、最適な運動イメージを選択する必要性がある。
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© 2013 日本理学療法士協会
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