日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
カルニチン
常石 英作
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2006 年 53 巻 6 号 p. 361

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抄録

カルニチンは必須アミノ酸であるリジンとメチオニンから主に肝臓と腎臓で生合成され,その大部分(98%)が骨格筋と心筋に存在している.脂肪燃焼(β酸化)は細胞内のミトコンドリアで行われるが,長鎖脂肪酸がミトコンドリア内膜を通過するためには,カルニチンとの結合でアシルカルニチンの状態になることが不可欠である.したがって,カルニチン濃度が脂肪酸燃焼の律速要素となっている.
カルニチンの体脂肪抑制効果に関する報告によると,運動条件下のラットに対してカルニチンを投与した場合,無投与よりも多く飼料摂取したにもかかわらず,蓄積脂肪量は少なかった.適度な運動とカルニチンの摂取が体脂肪を抑制するものと思われる.カルニチンは2002年の食薬区分の変更により,食品としての利用が可能となり,サプリメントとして注目を集めている.
カルニチンの食品中含有量調査によると,植物にはほとんど含まれておらず,畜肉類に多い.特に牛,山羊,羊,鹿,馬,ダチョウなどの肉に多く,カルニチンが多い畜肉の第1条件は草食動物由来である.図1に各種畜肉中のカルニチン含量を示したが,牛肉については月齢による違いが見られ,8歳(95カ月齢)の経産肥育牛で高い値を示した.図2に示すとおり,カルニチン含量は加齢による増加が認められ,カルニチンの第2条件は「幼畜よりも成畜」からの肉と考えられる.ヒトにおいて老化に伴う体内カルニチン含量の減少が知られている.牛のカルニチン含量については,10歳(120カ月齢)程度がピークのようである.カルニチン含量は基礎体力を反映しているのであろう.
通常「国産牛肉」と表示される乳雄牛と「和牛肉」となる黒毛和牛,それぞれの一般的な出荷月齢は,20カ月と27カ月程度である.牛の永久歯は18-24カ月齢で生え始め,42-48カ月齢で揃うことから,乳雄牛や和牛は体重が700kg以上あるものの,生理学的に若齢であり成牛とは言えない.近年の羊肉ジンギスカンブームは,草食動物である羊の肉にカルニチンが多く含まれることがきっかけであった.特に成畜由来の羊肉「マトン」で含有量が高く,消費者にアピールし易かったものと考えられる.牛肉中カルニチン含量も成牛由来であればマトンと同様に極めて高い値を示すものの,若齢牛肉と区別が出来なかった.牛肉中のカルニチンを評価するためには,成牛肉という意味でマチュアビーフ(mature beef)などの名称が必要であろう.

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