抄録
【はじめに、目的】 サイドステップカッティング動作(以下、カッティング)は、多くのスポーツで頻繁に行われる。カッティング中にみられる急激な減速および方向の変換によって、膝関節で生じる力学的ストレスから膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷のリスクは高まる(Chappell et al. 2007)。またACL損傷は、膝関節の外反が強制された状態で圧倒的に多く発生している(Boden et al. 2000)。この動きはいわゆる「knee-in」としてよく知られている。ACL損傷予防において、ハイリスク選手に注目しておくことはきわめて重要であり、このknee-inがハイリスク選手の特徴としてあげられるだろう。しかしながら、実際にknee-in の著明な選手がそうでない選手と比較してどのような運動学的特徴を有しているのかは不明である。また、Imwalleら(2009)はカッティングの角度の違いは膝関節の運動力学的因子に影響を与えると報告している。しかし、knee-inが著明な選手とそうでない選手でカッティングの角度の違いが膝関節に及ぼす影響は異なるのではないかと考えられる。そこで本研究ではknee-inのあるハイリスクな選手(以下、HR)とそうでない選手(以下、NR)のカッティング時の膝関節運動の特徴と、カッティングの角度の違いによる膝外反角度の変化率を比較することを目的とした。仮説として、HRはカッティング時にNRより膝関節外反角度が大きくなり、45°カッティングと90°カッティングの変化率も大きくなるとした。【方法】 現在特に整形外科的疾患のないHRの女性バスケットボール選手2名(対象A、B)と、NRの選手2名(対象C、D)の計4名(年齢20.0±1.4歳、身長158.0±3.5cm、体重49.3±5.3kg)を対象とした。対象には全長5mの走路を最大努力で助走し、移動方向の反対側の脚で踏み切り、直進方向に対して45°と90°の2条件のサイドステップカッティングを行わせた。それぞれ3試行実施した。特製の移動反応測定システム(竹井機器工業社)を使用し、左右いずれかの移動方向を助走開始後に前方に設置した刺激板のLEDを点灯することで、非予測下で指示した。反射マーカーを両下肢の計16箇所に貼付し、4台のハイスピードカメラ(4assist社)を用いて、サンプリング周波数200Hzで撮影した。。撮影した画像は、三次元動作解析ソフト(DIPP-Motion XD、DITECT社)に取り込み、DLT法により各マーカーの三次元座標を求め、踏み切り脚の膝関節外反角度、屈曲角度を算出した。分析には踏み切り脚接地から最大膝屈曲位までに生じた最大膝外反角度を用いた。膝外反角度は安静立位時の膝外反角度を減じた角度とし、HRのNRに対する比率(HR/NR比)を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した。全対象に本研究の趣旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】 45°カッティング時の膝外反角度のHR/NR比は1.49、90°カッティング時の膝外反角度のHR/NR比は1.50であった。また45°カッティングと90°カッティングの膝外反角度の変化率は、HRで11.0%、NRで9.1%であった。【考察】 本研究の結果は、膝外反角度のHR/NR比をみると、45°カッティングと90°カッティングのどちらもHRが大きい値を示し、仮説通りの結果となった。これはHRで実際のカッティングの膝外反角度はNRよりも確かに大きく、視覚的なknee-inはカッティングの角度の違いにかかわらず実際の膝外反角度を反映することが示唆された。また、45°カッティングと90°カッティングの膝外反角度の変化率では、HRとNRでは90°カッティングで同程度増加しており、仮説通りにはならなかった。45°カッティングよりも90°カッティングのほうがより膝外反角度が増大するため、Imwalleらの報告からも90°カッティングのほうがよりACL損傷のリスクが高いと考えられる。HRとNRで同程度の変化率を示したことから、HRでは90°カッティングの際により大きな膝外反角度となるため、さらにリスクが増大する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究で、症例数が少ないながらknee-inが著明なハイリスク選手は45°カッティングでも90°カッティングでも実際の膝関節外反角度を反映することが示唆されたことは意義がある。