抄録
【はじめに、目的】人工膝関節置換術(TKA)は、著明な除痛効果があり、術後早期から歩行能力改善が得られる。近年、TKA術後の入院期間が短縮され、より早期から術後理学療法が行われる。限られた入院期間中に退院時の歩行機能を効率的に改善させるためには、筋力や可動域など多くの要因が影響することが予想されるが、どの要因に対して重点的に介入が必要かを特定することが重要である。また、入院中は理学療法以外の時間が長時間を占めるが、この間の活動も退院時機能に影響を受けると考えられる。本研究の目的は、術前後の機能変化および術後活動量が退院時の歩行機能に影響を及ぼすかを検討することである。【方法】2011年6月から2012年10月までの間に当院整形外科を受診し、変形性膝関節症を原因疾患として初回人工膝関節置換術を施行した109名121膝を対象とした。術後合併症によりクリティカルパスから逸脱した者は除外した。平均年齢は74.7±6.0歳、身長151.7±7.6cm、体重59.6±10.9kg、BMI25.3±3.4であった。39名はすでに反対側TKA後であった。変形性膝関節症患者機能評価尺度の術前平均値は53.3±18.8点であった。TKA術前後の歩行機能指標としてTimed up & Go test(TUG)を使用した。なお、歩行補助具の使用有無は、術前は外出時、術後は病棟内歩行時の使用状況とした。5回立ち座りテスト(STS)、開眼閉脚立位における足圧中心軌跡外周面積(RMS)および術側への荷重率(術側下肢荷重量/体重×100%)を求めた。また、膝関節屈曲60度位での術側最大等尺性膝伸展筋力(Nm/kg)、膝関節屈曲可動域を測定した。これらの測定は術前・術後4週時に実施し、STS・RMS・術側荷重率・膝伸展筋力・膝屈曲可動域および歩行時疼痛における術前後の変化量を求めた。また、術後病棟内歩行自立後より対象者に活動量計を持参させ、術後3週目・4週目の一日平均歩数を求めた。クリティカルパスよりも数日早期に退院となった場合には、退院日より遡って7日間毎の一日平均歩数を算出した。統計は術前後のTUGを対応のあるt検定にて比較した。また、従属変数を術後TUG、独立変数として術前TUG、年齢、BMI、性別、反対側TKAの有無、膝伸展筋力・膝屈曲可動域・STS・RMS・荷重率・歩行時疼痛の変化量、術後3週と4週の一日平均歩数の全13項目を投入してステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。さらに、術後TUGをTKA術後歩行機能改善の境界値とされる10.1秒により2値化して、ROC解析を行い、術後歩行機能改善を予測するカットオフ値を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の内容を十分に説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】TUGは術後有意に改善した(術前11.9±5.1秒、術後10.5±2.8秒;p<0.01)。重回帰分析の結果、抽出された因子は、術前TUG(β=0.692)・術後4週目の平均歩数(β=-0.262)・STS変化量(β=0.253)・荷重率変化量(β=-0.126)・年齢(β=0.126)であり、自由度調整済み決定係数は0.585であった。補正因子である術前TUGを除いて、最も影響度の大きい術後4週目の平均歩数を独立変数として、術後TUGの改善に対するROC曲線を作成した(AUC = 0.736)。Youden indexから求めたカットオフ値は、2882歩(感度62.9%、特異度72.9%)であった。【考察】先行研究により術前機能が術後機能に影響することは明らかであり、ベースラインの影響を考慮するために補正因子として術前TUGを独立変数に投入して重回帰分析を行った。その結果、術後TUGの改善には、術後4週目の一日平均歩数、立ち上がり時間の改善および術側への荷重量増加が関係していた。術前歩行機能の影響や術後の疼痛改善に関わらず、術後の活動性が高いほど退院時の歩行機能は良好であり、術後4週目には一日平均約2900歩の活動量を確保することが歩行機能の良好な改善に寄与することが明らかとなった。また、術前後における立ち上がり時間の短縮と術側への荷重量増加が歩行機能の改善に影響するため、術後理学療法では立ち上がり機能や術側への荷重促通に対しての積極的な介入が重要であることが分かった。【理学療法学研究としての意義】本研究は包括的検討により様々な因子で調整した上でもTKA術後の歩行機能改善への影響が特に大きい要因を明らかにした。また、TKA術後の活動量処方に2900歩という具体的な目標を示すことで、理学療法に有用な情報を提供するものと考える。