抄録
【はじめに、目的】 重症心身障害児(以下重症児)は、幼少時期には変形がみられないが、加齢とともに股関節脱臼や脊柱側彎をはじめとする四肢体幹の変形が生じ、成長期を中心に悪化することは周知である。高度な変形は姿勢保持や姿勢変換を困難にするだけでなく、呼吸機能や嚥下機能にも影響を及ぼす。脊柱側彎と股関節脱臼の関連についての報告は散見するが、重症児の経年的な脊柱側彎経過の中で股関節脱臼の関係をとらえる報告は少ない。本研究では、重症児の脊柱側彎の経年的変化の中で、股関節脱臼がどのように影響を及ぼすか検討することを目的とした。【方法】 対象は当センター医療型障害児施設に入所し、年1回の計測を4年以上実施できた重症児・者32名(男性16名、女性16名)である。全例、粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)にてレベル5、平均年齢は18.5±7.5歳(初回評価時平均年齢9.2±5.6歳)、平均計測回数は10.3±4.3回であった。年1回の定期検査として放射線技師が撮影した背臥位レントゲン画像から、整形外科医師が脊柱側彎の指標Cobb角と範囲、股関節脱臼の指標Migration percentage値(以下MP値)を計測した。脊柱側彎はCobb角30°以上で脊柱側彎発症とし、股関節脱臼はMP値40以下を脱臼なし、41~80を亜脱臼、81~100を脱臼とした。股関節脱臼発症時と脊柱側彎発症時の年齢を比較し、最終評価時での股関節を脱臼なし群(脱臼なし・亜脱臼)、両側脱臼群、片側脱臼群に分類し、年齢・Cobb角について検討した。また、年齢を0~5歳、6~10歳、11~15歳、16~20歳、21~25歳の5年ごとに分け、脱臼なし群、両側脱臼群、片側脱臼群の比較と、各年齢間の変化量について検討した。統計処理として、股関節脱臼発症時と脊柱側彎発症時の年齢比較と、脱臼なし群・両側脱臼群・片側脱臼群の最終評価時の年齢およびCobb角をスチューデントのt検定により検討し、各群の年齢間の脊柱側彎変化量を二元配置分散分析により検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は後方視的解析であり、定期評価として撮影されたレントゲン画像を使用し、ヘルシンキ宣言に基づき所属長の承認を得て実施し、個人を特定できる情報は使用していない。【結果】 経過の中で脊柱側彎発症を確認できた発症年齢は平均13.9±5.1歳、片側の股関節脱臼発症を確認できた発症年齢は平均6.4±3.6歳で有意差が認められた(p<0.01)。脱臼なし群・両側脱臼群・片側脱臼群の最終評価時の年齢に応じたCobb角の比較では、片側脱臼群が脱臼なし群・両側脱臼群に対し有意にCobb角が大きかったが(p<0.01)、脱臼なし群と両側脱臼群では有意差は認められなかった。また、5年ごとの変化量では、各群の脊柱側彎の変化量は年齢ごとに有意差が認められたが(p<0.05)、各群間には有意差は認められなかった。両側脱臼群・片側脱臼群は、脱臼なし群に比べ、6~10歳、11~15歳の時期に悪化する率が高く、脱臼なし群は長期にわたって進行する傾向があった。両側脱臼群の10名中、評価時すでに両側脱臼が認められた4名を除き、片側脱臼後1~3年後に対側も脱臼した3名は脊柱側彎の変化が少なかったが、3名は片側脱臼後5年以上の経過の中で脊柱側彎進行した後に対側脱臼がおきていた。側彎カーブは下肢の影響を受けやすい胸腰椎部が多かったが、経過の中で胸椎部にダブルカーブを呈する変化もあり、その場合双方のカーブが同様に進行していた。【考察】 発症年齢を確認できた時期は脊柱側彎より股関節脱臼の方が早く、股関節脱臼の脊柱側彎への影響が示唆された。片側脱臼からすぐに対側脱臼に至る場合と片側脱臼から脊柱側彎進行後に対側脱臼に至る場合があり、片側脱臼群が脱臼なし群・両側脱臼群に対し有意にCobb角が大きかったことをふまえると、股関節脱臼が片側性なのか早期に両側性に至るものかを分析し対応していくことがその後の脊柱側彎の進行に影響していくと思われる。古谷らは側彎発症の年齢が早いほど成長期の影響を受けやすく最終的な重症度が異なると述べており、早期にみられる股関節脱臼にはより注意が必要といえる。片側脱臼群と片側脱臼から脊柱側彎進行後に対側脱臼に至った両側脱臼群は、脱臼なし群や片側脱臼からすぐに対側脱臼に至った両側脱臼群に比べ、6~10歳、11~15歳の時期に脊柱側彎進行が早く、今回は調査していないが、片側脱臼による骨盤傾斜の影響が関与していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 重症児の股関節脱臼が脊柱側彎に及ぼす影響を経年的にとらえることで、長期的な展望のもとで重症児の理学療法の展開が可能となり、方針・治療アプローチの立案の一助となり得ると思われる。