抄録
【はじめに、目的】脳卒中片麻痺をはじめとする中枢神経疾患ではその症状が四肢のみではなく、体幹に及ぶ場合が少なくない。また、理学療法士が中枢神経疾患患者を評価する際、四肢については標準化された評価手法を用いるものの、体幹については標準化されたものに乏しく、患者の状況を客観的に把握することが困難な場合も少なくない。この理由は、体幹が両側神経支配を受けていることや体幹機能を単純に麻痺側、非麻痺側に区別して運動機能を個別に評価することが困難なことがその要因と考えられる。吉尾ら(1979~1998)は片麻痺の頸、体幹、骨盤の運動機能検査から、吉元ら(1991)は姿勢反射機構と立ち直りから体幹の評価法を作成しているが、普及するには至っておらず、体幹の評価法についての検討が必要である。そこで我々は体幹の立ち直り機能に注目し、これと日常生活動作(ADL)における関連性から体幹機能評価の基礎となる検討を行った。【方法】対象は脳卒中患者18名(男性11名、女性7名)、平均年齢62.3±10.5歳を対象とした。発症からの期間は平均で80±43.6日であり、出血性病変、梗塞性病変が共に9例であった。対象の条件として認知症・中程度以上の高次脳機能障害のある者、高度な感覚障害のある者、体幹に高度な可動域制限のある者は除外した。評価方法は以下のように規定した。対象者は端坐位で股・膝関節屈曲90度、足関節底背屈中間位、股関節外転20度、股関節内外旋0度、体幹正中位を開始姿勢とした。課題は骨盤の水平位を保ちながら、非麻痺側の上肢を外側にリーチさせ、体幹の立ち直りを誘発させた。課題中、骨盤以下の姿勢を崩さないこと、体幹を回旋させないことを指示した。この課題をビデオで撮影し、最大リーチ位での骨盤の傾斜角、腰椎の傾斜角、胸椎の傾斜角を計測し、脊柱立ち直り角(骨盤傾斜角0度線からの垂線と腰椎の平行線との角度(外側腰椎角)と腰椎の平行線と胸椎の平行線との角度(内側胸腰角)の和)を計測した。この脊柱立ち直り角等とADLとの関連を明らかにするため、機能的自立度評価表(FIM)、Fugl-Meyer Assessment(FMA)、Berg Balance Scale(BBS)を調査した。その他、関連する事項として、下肢のBrunnstrom stage(BRS)、体幹の屈曲・伸展・側屈、股関節伸展の粗大筋力も計測した。計測結果の統計学的処理はSpearmanの順位相関係数検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象には研究の意義を十分に説明し、同意を得た上で研究に参加した。【結果】脊柱立ち直り角とFIMのベッド移乗(r=0.52)、外側腰椎角とFIMのベッド移乗(r=0.52)、脊柱立ち直り角とFIMのトイレ移乗(r=0.52)、外側腰椎角とFIMのベッド移乗(r=0.52)、脊柱立ち直り角とBBSの麻痺側片脚立位(r=0.50)、外側腰椎角と麻痺側片脚立位(r=0.54)は有意な相関関係を認めた。また、腹部の粗大筋力については、FIMの下衣更衣と腹斜筋(r=0.48)、FIMの浴槽での移乗と腹斜筋(r=0.51)、FMAのバランスと背筋(r=0.52)の項目間で有意な相関関係を認めた。BRSはFIMの合計点数(r=0.71)等、FMAの合計点数(r=0.69)等、BBSの合計点数(r=0.77)等と有意な相関関係を認めた。また、股関節伸展の粗大筋力もFIMの合計点数(r=0.61)等、FMAの合計点数(r=0.57)等、BBSの合計点数(r=0.68)等と有意な相関関係を認めた。その他に有意な相関関係を認めた項目はなかった。【考察】今回の検討において、我々が考案した脊柱立ち直り角、外側腰椎角、そして内側胸腰角にADLの一部で相関関係が認められた。脊柱立ち直り角は外側腰椎角と内側胸腰角の和であり、外側腰椎角は骨盤と腰椎の傾斜機能を示し、内側胸腰角は胸腰椎の立ち直り機能を示すと考えている。これらの指標の有効可能性が示されたことで、これらの数値の示す意味をより深く検討することが必要と考えられた。また、体幹筋の粗大筋力とADLの一部との相関関係も認められた。これらの要因についてはより詳細な検討を継続する必要がある。しかし、BRS(26項目)や股関節粗大伸展筋力(22項目)においては、これらより多くの相関関係が示されており、BRSや筋力テストのグレーディング精度の高さを改めて確認できた。今後は新たな評価指標項目の検討、およびそれらの精度管理を進め、体幹機能の重症度分類の作成を目指したい。【理学療法学研究としての意義】本研究は体幹の客観的な評価指標作成の基礎的な研究であり、継続的検討による体幹の評価指標の確立にて理学療法へ寄与できるものと考える。