抄録
【はじめに、目的】厚生労働省によると、我が国には、何らかの介護・支援が必要とする認知症がある者(認知症高齢者の日常生活自立度判定基準2以上)が、約150万人にいるとされており、2015年には約250万人に増加すると予測されている。一方で、高齢者夫婦のみ世帯も約610万人となると見込まれ、家族による介護がますます困難な状況になると考えられる。高齢化の進展により、在宅で高齢障害者の介護を行う家族の身体的精神的負担は大きな課題となっている。認知症を罹患した者を在宅で介護することは、家族介護者に対して抑うつ等の影響を及ぼすことが知られているが、訪問系サービスにおいて介護により生じる精神的負担を客観的に評価し、介護負担増大の要因を検討した事例は少ない。今回、介護負担要因に考えられる被介護者の身体機能面と認知機能面とその複合評価となる要介護度に着目し、介護負担感の客観的評価の関係性を調査した。【方法】訪問リハビリテーションを含む、介護サービスを利用している被介護者と主介護者のうち、本研究に同意の得られた27名を対象とした。主介護者に対し、Zarit介護負担尺度日本語版(以下、J-ZBI)による自記式調査を実施し、総得点を割り出した。本研究における主介護者は、担当セラピストの判断により、コミュニケーションに問題を認めず、被介護者と同居している者とした。期間は1カ月とし、1週間放置法を用い、後日回収した。対象ごとに、介護認定の指標でしばし用いられる「障害者の日常生活自立度」、「認知症高齢者の日常生活自立度」、「要介護度」の評価を実施し、それぞれの項目とJ-ZBIとの関連性を検討した。統計処理は、SPSS ver.16.0を使用し、Spearmanの相関係数によるそれぞれの項目の関連性を導いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】説明書を作成し、「研究の目的」「自由意志の尊重」「個人情報、人権の保護」「成果の公表」「問い合わせ先」を明記した。以上を同意していただいた方には、署名、捺印をいただき、研究にご協力いただいた。【結果】J-ZBIの総得点と「障害者の日常生活自立度」の間には相関を認めなかった。(r=0.192)総得点と「認知症高齢者の日常生活自立度」の間には正の相関を認めた。(r=0.459)総得点と「要介護度」の間にも正の相関を認めた。(r=0.465)【考察】障害者の日常生活自立度と介護負担が相関を認めない理由は、被介護者の日常生活動作を介護することだけでなく、介護を抱える精神的ストレスも含めた要因が介護負担に繋っているからと考える。認知症高齢者の日常生活自立度と介護負担に正の相関がある理由は、認知症を有することで見守りをする時間が増え、直に被介護者と関わる時間以外にも介護について考えなければならないことが原因と考える。また、要介護度と介護負担に正の相関がある理由に関しても、要介護度の評価内容に対象者の行動症状や認知機能を含めていることが要因であると考えられる。先行研究によると、認知機能低下や社会支援の乏しさは、高齢者虐待に関与するとの指摘があり、介護負担度の把握は求められてくる。谷垣らによると、介護負担感と健康状態の関係性はあると報告し、家族介護者の身体的精神的健康状態の悪化は、介護者に対する介護の質の低下をもたらすとされている。介護の質の低下は、過介助による被介護者の自立性低下が想定され、認知機能のさらなる低下や家族の健康増悪をもたらし、悪循環に陥る可能性がある。J-ZBIの集計より、高い項目の一つに設問9「患者さんのそばにいると、気が休まらないと思いますか」があり、主介護者の心が休まる機会が少ないように感じられる。そのため、介護教室による実演指導や認知症の関わり方など生活に密着した指導をする事が効果的と思われ、さらなる調査の必要性がある。J-ZBIでの介護負担評価は、介護の状況把握として有用な情報を与え、サービス提供を考える上での指標になると考えられる。以上から、被介護者の認知機能を考慮し、主介護者の身体的精神的状態の把握に努め、実生活の介護指導を行うことで、介護負担軽減は図れると示唆された。【理学療法学研究としての意義】認知高齢者の増大が予測される我が国にとって、介護負担感の要因を検討することは、在宅におけるサービス向上の有用な知見になると考える。在宅における理学療法士は、対象者の心身機能および日常生活動作能力の維持改善だけでなく、認知機能を配慮しながら、主介護者の健康面や心理面の把握に努めることが重要である。その上で、家族への生活指導や認知症高齢者との関わり方を指導していくことが求められてくる。