理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-37
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ポスター発表
足関節不動モデルラットにおける腓腹筋の圧痛覚閾値の推移と神経成長因子の発現について
大賀 智史片岡 英樹関野 有紀濵上 陽平中願寺 風香坂本 淳哉中野 治郎沖田 実
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キーワード: 不動, 筋痛, 神経成長因子
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抄録
【はじめに、目的】臨床において創外固定・ギプス固定などにより長期の不動期間を経た患者に対して理学療法を実施する際,触刺激のみならず,筋に圧刺激を加えると,それが軽度であっても痛みを訴えられることをしばしば経験する.しかし,そのような不動により惹起される筋痛または深部痛について検討した報告は見当たらず,病態の詳細は不明であり,どのような時期に発生するのかもわかっていない.一方,近年の研究によれば遅発性筋痛の病態として神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)の関わりが注目されており,小動物を用いた基礎研究によれば遠心性収縮により惹起された遅発性筋痛モデルラットの腓腹筋においてNGFの発現が増加していること,またNGFを筋内に投与すると筋圧痛覚閾値の低下を引き起こすことが報告されている.NGFは元来,神経線維の成長や発芽を促し,また神経細胞の機能維持に働くサイトカインであるが,痛みの内因性メディエーターとしても作用することが知られており,前記したような不動により惹起された筋痛に関わっている可能性がある.そこで本研究では,足関節不動モデルラットにおける腓腹筋の圧痛覚閾値の推移とNGFの発現について検討した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット11 匹を用い,4 週間通常飼育する対照群(n=5)と右側足関節を最大底屈位にて4 週間ギプス固定する不動群(n=6 )に振り分けた.実験期間中,痛覚過敏の指標としてvon Frey filament testを実施し,足底部にfilamentで刺激(4,8,15g;各10 回)を加えた際の逃避反応回数をカウントした.また,腓腹筋の筋圧痛の指標として,圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を測定し,5 回の測定を行った結果から最大値と最小値を除外した3 回の測定値の平均値を圧痛覚閾値として採用した.すべての測定とも週1 回の頻度で経時的に行い,測定は覚醒下でギプスを除去した状態で行った.実験終了後,ラットをペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)で麻酔した後に腓腹筋を摘出し,Western blot法によるNGF発現量の測定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】不動を開始して1週目から,不動群において4g,8g,15gのvon Frey filament刺激に対する逃避反応回数は増加した.また,不動を開始して2 週目より不動群において腓腹筋の圧痛覚閾値は低下した.von Frey filament testでは不動1 週目より,腓腹筋の圧痛覚閾値は不動2 週目より不動群と対照群の間に有意差を認めた.そして,これらの症状は不動期間に準拠して顕著となった.また,NGF発現量は対照群と比較して不動群において有意な増加を認めた.【考察】今回の結果から,足関節の不動により足底部の機械的刺激に対するアロディニア・痛覚過敏が観察された.この症状について我々は同じモデルラットを用いたいくつかの先行研究を報告しており,具体的には不動によって足底皮膚の菲薄化や末梢神経密度の増加,表皮におけるNGF発現量の増加といった末梢組織の変化が生じ,これらがアロディニア・痛覚過敏の発生に関与することを示してきた.また,今回は腓腹筋においても圧痛覚閾値の低下を不動2 週目から認めたことから,不動に由来する痛覚過敏は皮膚のみならず骨格筋においても生じることが明らかとなり,そのメカニズムにはNGF発現量の増加が関わっている可能性が示された.今後さらに検討を進め,長期の不動期間を経た患者で見られる筋痛・深部痛の病態を明らかにしていきたい.【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動により骨格筋の圧痛覚閾値の低下が惹起され,そのメカニズムにはNGFの発現が一端を担っている可能性を提示した.われわれ理学療法士は骨格筋を含む末梢組織に対して直接介入可能であることから,本研究の発展は不動に伴う筋痛・深部痛に対する理学療法的な介入方法の開発につながると期待でき,理学療法学研究として十分意義があると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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