抄録
【はじめに、目的】 高齢者が運動を継続するためにはグループでの運動が重要であるという報告がある(吉田,2006).しかし,参加している者の中にも参加を中止する者がいるが,グループ運動への参加中止に関連する要因についての報告は非常に少ない. また,縦断調査では,追跡期間が長期になるほど脱落の要因が広範になるとの報告がある(杉澤,2000).このことから,自主参加型体操グループ(以下,体操グループ)への参加中止に関連する要因においても,経年による変化があるのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,グループでの運動に参加している地域在住高齢者において,2年後および3年後の体操グループへの参加中止に関連する要因とその要因の経年変化を明らかにすることとした. 【方法】 対象は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集し,2009年のベースライン調査に参加した65歳以上の地域在住高齢者74名とした.この内,調査不参加者に対する電話調査の協力を得られなかった者は除外し,2年後の体操グループへの参加中止要因の検討は64名(平均年齢71.6±3.9歳)を対象とし,3年後の検討は60名(平均年齢72.5±4.3歳)を対象とした.参加者には体力測定および質問紙調査を実施し,調査項目の欠損のなかった者を分析の対象とした.調査項目は,体操グループへの参加の有無,年齢,身長,体重,Body Mass Index(BMI),円背指数,握力,開眼片脚立位時間,立位体前屈,Timed Up and Go Test,5m最大および通常歩行時間,膝伸展筋力,老研式活動能力指標,WHO5精神的健康度評価表(WHO-5),Fall Efficacy Scale International(FESI)である.調査への不参加者には電話調査を実施し,体操グループへの参加の有無を聴取した.また,参加中止者には中止理由も聴取した. 統計解析は,体操会への参加継続の有無を従属変数(継続=0/中止=1)とし,ステップワイズ法による多重ロジスティック回帰分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は桜美林大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には口頭および書面にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】 2009年の調査参加者の内,2年後の体操グループへの参加継続者は50名(78.1%),参加中止者は14名(21.9%),3年後の参加継続者は43名(71.7%),参加中止者は17名(28.3%)であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,2年後の体操グループへの参加中止に関連する要因として,ベースライン調査時のBMI(オッズ比;0.68,95%信頼区間(95%CI);0.47-0.99,p=0.044),開眼片脚立位時間(オッズ比;0.97, 95%CI;0.94-0.99,p=0.027),WHO-5(オッズ比;0.80, 95%CI;0.65-0.99,p=0.038)の3項目が抽出され,3年後の参加中止に関連する要因として,開眼片脚立位時間(オッズ比;0.97, 95%CI;0.94-0.99, p=0.037),FESI(オッズ比;1.07, 95%CI;1.01-1.14,p=0.039が抽出された.参加中止理由は,疾病の罹患・増悪(2年後:5名,3年後:2名),疼痛・怪我(2年後:3名,3年後:7名),他の運動・趣味の開始(2年後:1名,3年後:3名),死亡(2年後:2名,3年後:3名),億劫になった(2年後:1名,3年後:1名),不明(2年後:2名,3年後:1名)であった.【考察】 本研究では自主参加型体操グループに参加している地域在住高齢者の体操グループへの参加中止に関連する要因の経年変化について検討した.その結果,2年後の体操グループへの参加中止を低減させる要因として,ベースライン調査時のBMI,開眼片脚立位時間,精神的健康状態,3年後の参加中止を低減させる要因として開眼片脚立位時間,増加させる要因として転倒自己効力感がそれぞれ独立して関連することが明らかとなった. また,運動を継続している地域在住高齢者においては, 2年後と3年後の1年間の追跡調査においても参加中止に関連する要因に変化があることが明らかとなった. 縦断研究からの脱落者特性については,ベースライン時の開眼片脚立位時間が短いという報告(柴田,1985)があるが,本研究はこの研究を支持する結果であった. また,参加中止理由の変化から,疼痛や怪我が顕著に増加していること,3年後の参加中止においては転倒自己効力感や開眼片脚立位時間などバランス能力に関係する要因が関連していることから,自立高齢者の運動継続のためには,特に疼痛や怪我の予防,バランス能力の向上のためのアプローチが重要である可能性も推察された.【理学療法学研究としての意義】 我が国の高齢者人口は増加しており,障害を持たない自立高齢者は全体の約8割を占めている.本研究は,自立高齢者が運動を継続し,健康な身体,生活を維持していくための介護予防・疾病予防としての運動介入の方策を検討する一助となると考えられ,理学療法学研究としての意義は高いと考える.