抄録
【はじめに】近年,スポーツ障害などの急性期の組織損傷に対し,「疼痛軽減」「腫脹軽減」「組織治癒促進」を目的として,微弱電流刺激(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)が用いられている.従来,MENSは褥瘡などの創傷治癒促進を目的として研究が進められており,創傷部位に生じる損傷電流を考慮することから,直流電流が用いられてきたが,スポーツ現場や理学療法場面において用いられるMENSは,極性が交互に変化する2相性のものである.しかしながら,臨床現場での実感が先行し,基礎的な研究は遅々として進んでおらず,2相性MENSの効果を示す客観的な報告はほとんど皆無である.今回,MENSの極性による急性外傷後の組織修復効果の違いを確認するため,皮膚全層欠損モデルラットを用いた実験を行ったので報告する.【対象と方法】wistar系,8週齢の雄ラット24匹を無作為に3群に分けた.そのうち1群は創傷を作成するのみの対照群とし,後の2群を単相性MENS群と2相性MENS群に分けた.創傷は,直径8mmのBiopsy punch(カイインダストリーズ社製)を用いて全層欠損モデルを作成した.創傷作成翌日より7日間,1日20分間のMENS(500μA,0.3Hz,2.5s)を,複合型電気刺激装置(伊藤超短波社製 EU-940)を用いて行った.単相MENS群は,創傷作成翌日より3日間は陽極電流を用い,その後陰極を用いた.効果判定は,治療開始より3日目,7日目の創面積を比較した.創面積は,直径10mmの円を基準とした比率(%)とし,測定は,デジタルビデオカメラにより創部を撮影した後,パーソナルコンピューターに取り込んだ画像を,NIHImageJ ver.1.44を用いて測定した.群間比較には一元配置分散分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,兵庫医療大学動物実験委員会の審査・承認を得て行った(承認番号2010-18-1).【結果】3群とも,創傷作成から日を経るに従って創面積は縮小した.創傷作成初日ならびに3日目の創面積では,3群間に差は認められなかった.しかしながら,7日目では対照群(12.95±4.05%),単相性MENS群(12.28±2.70%),2相性MENS群(7.93±3.08%)と2相性MENSの創面積が対照群に対して有意に縮小した(p<0.05).【考察】MENSは1980年代前半に,FouldsやBarkerらが,ヒトの皮膚での生体内電荷を確認し,損傷した皮膚で発生する損傷電流が,創傷治癒に何らかの役割をもっているのではないかと示唆したことに起源をもっている.従って,この損傷電流が,マクロファージや線維芽細胞といった創傷治癒に関与する物質を電気的に集積することがその作用機序としていわれてきた.そのため,炎症の起こっている急性期には陽極を用い,組織修復が始める3日目以降は陰極を用いることが望ましいとされている.しかしながら,実際の臨床現場では,2相性のMENSによる急性期治療が行われており,筆者らは,第47回本学会にて足関節周囲の骨折手術後の症例に用いることで腫脹の軽減効果が認められたことを報告している.今回,単相性MENSよりも,2相性MENSの方が創傷治癒効果が高かったことは,急性期の創傷治癒促進では,従来言われてきたMENSの作用機序以外の何らかの作用が働いているものと考えられる.今後は,これらを解明するために,今後は組織学的,生化学的な検証を進め,作用機序の解明が必要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本邦において,物理療法全般について「その根拠が確立されていない」ことを理由に使用しない理学療法士が多い現状がある.2相性のMENSは,理学療法士以外のスポーツトレーナーといった職種や選手自身が効果を認め,現場先行で使用しており,物理療法が専門である理学療法士が臨床現場で使用していない.本研究は急性期の損傷に対する2相性MENSの効果を検証しており,多くの理学療法場面での使用が想定でき,そのための根拠となりえるものである.【謝辞】本研究は,JSPS科研費若手(A)23680060の助成を受けたものである.