抄録
【はじめに、目的】 微弱電流(Micro Current Electric Neuromuscular Stimulation:以下MCENS)とは,1000μA以下の電気刺激を用いる治療法であり,褥瘡局所治療ガイドラインにおいて,MCENSはエビデンスレベルBと報告されている. 近年では,整形外科疾患に対するMCENSが実施されている.先行研究において,全人工膝関節置換術直後のMCENSは,術後疼痛や鎮痛投薬量の減少,創傷治癒促進に効果があると報告されている(T.El-Husseini,2006).さらに,急性期足関節捻挫に対してMCENSを使用することにより,腫脹の軽減が認められており,スポーツの早期復帰の一助と成り得ることを示唆している(廣重ら,2011). しかし,本邦ではMCENSの臨床的研究は散見される程度であり,手術直後のMCENSによる除痛効果を検討したものはほとんど見当たらない.また,先行研究のほとんどが一相性電流によるMCENSを使用しており,陰極と陽極を交互に変換するようなニ相性電流を適応したものは皆無である.以上より本研究は,術後炎症により疼痛が出現しやすい関節鏡視下腱板縫合術(arthroscopic rotator cuff repair:以下ARCR)術後症例に対してニ相性MCENS(以下b-MCENS)を使用することで,その効果について検討することを目的とする.【方法】 対象は2012年1月から2012年9月の間に当院においてARCRを施行され,本研究の参加への同意を得たARCR術後症例32名とした.研究デザインはランダム化比較試験とし,対象者をExcel(Microsoft社製)の乱数関数にてb-MCENS群(14名)とCON群(18名)に割り付けた.b-MCENS群には,通常理学療法にb-MCENSを追加した.電気刺激には,AT-mini(伊藤超短波社製)を使用した.電極は創部を挟み込むように設置し,術後翌日より,1日9時間,週7回行った.b-MCENSの設定はcombinationモード(周波数0.2Hz~200Hz変調,電流強度50~500μA変調)を採用した.対照群に対しては通常理学療法のみの施行とした.評価項目は,安静時痛,夜間時痛,動作時痛をVisual Analog Scale (以下VAS)を用いて測定し,さらに,投薬実施状況を調査した.統計学的処理は二元配置分散分析とPost-hoc検定(Dunnett法)を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従い実施した.全症例には下肢電気刺激の治療効果と副作用を含む本研究の主旨を十分に説明し,自由意思にて同意を得た.【結果】 介入前の各要因について,2群間に有意な差はなかった.二元配置分散分析にて,安静時痛,夜間時痛,動作時痛は時間の要因による主効果が認められ(P<0.0001),投薬数では,時間と群間による主効果が認められた(時期:P<0.0001,群:P=0.001).次に,各群内の継時的な変化を調査した結果,MCENS群では安静時痛,夜間時痛,動作時痛ともに3日後から有意に減少しており(安静時痛:P=0.0002,夜間時痛:P=0.023,動作時痛:P=0.011),投薬数は4日後から有意差が認められた(P=0.030).一方,CON群では,安静時痛は7日後から,夜間時痛と動作時痛は8日後から,投薬数は5日後から有意に減少した(安静時痛:P=0.006,夜間時痛:P=0.0016,動作時痛:P=0.004,投薬数:P=0.034).なお,すべての対象者は有害事象なく本研究を完了した.【考察】 両群ともに安静時痛,夜間時痛,動作時痛,投薬数は有意に減少しているが,群間差がなかったことから術後の痛みは,自然回復に依存していることが示唆された.しかし,CON群の除痛効果は7日以降に認められたのに対して,b-MCENS群では3日後から確認できることから,b-MCENSは除痛効果を迅速化したことが示唆された.この生理学的機構としては,b-MCENSによる創面環境調整の促進,線維芽細胞の遊走,および創部の肉芽増殖が影響していることが推察できる.【理学療法学研究としての意義】 MCENSは,微弱な電流であり副作用が非常に少なく,睡眠時間を利用して通電できるため,特別な介入時間を必要としない.また,本結果より除痛の短期化が図れる可能性があり,術後炎症により疼痛が出現しやすいARCR患者には有効な治療法であると考える.