理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-07
会議情報

ポスター発表
姿勢変化が呼吸時の胸壁運動に及ぼす影響
― 呼吸時体積変化の分析から ―
正保 哲山本 澄子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】 骨盤後傾のような姿勢の変化は,習慣的ライフスタイルや年齢または病変に伴う痛みや怪我に関連した要因により多くの人口に生じている.座位姿勢の中でも,脊柱の彎曲を伴う変化は数多くみられる.体位の変化による胸部と腹部の相対的な位置変化が呼吸機能に影響することは知られている.過去に胸郭運動を3次元的に計測した先行研究があるが,姿勢特有の胸郭の呼吸運動に対する影響について検討した研究はない.本研究では,呼吸時の胸郭体積変化に着目し,骨盤前後傾のような僅かな姿勢変化による呼吸時の胸郭体積変化を部位別に分析し,呼吸時の胸郭体積変化を部位別変化から分析することを目的とした.【方法】 対象は本研究に同意が得られた若年健常男性15名(平均年齢21.9±1.7歳)とした.また,呼吸器疾患、脊柱及び胸郭に変形を伴う疾患、開胸開腹術の既往のあるもの,喫煙歴のあるものは除外した.測定姿勢は直立座位と後傾座位の2姿勢とした.胸郭を3次元的に捉えるため,計測機器には,3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion Systems社),赤外線カメラ7台を使用した.マーカー貼付における身体のランドマークは胸骨頸切痕(頸切痕:JN),第3肋骨(3R),胸骨剣状突起(剣状突起:XP),第8肋骨(8R),第10肋骨(10R),臍(UB)とした.背側も同様に腹側に対して表裏をなす位置にマーカーを貼付し,前後4個の計8個のマーカーで形成された6面体で体幹を30個に分割し,それぞれの体積をMATLAB(MathWorks社)で作成した体積算出プログラムにより求め,6面体30個の合計を胸郭の体積とした.条件は,直立座位と骨盤後傾座位,安静呼吸と深呼吸の4条件の組み合わせでの呼吸時胸郭運動による体積変化の影響について,部位別の6面体による体積変化の検討を行った.また,各分節での体幹傾斜角度と体積変化の関係を確認するため,各分節に局所座標系を定義し,計測空間の絶対座標系との角度を体幹傾斜角度として算出した.ここでは体幹の屈伸をみるため,矢状面上の角度との関係を求めた.直立座位,後傾座位の姿勢変化とそれぞれの姿勢に対して安静呼吸,深呼吸の4条件について,解析は直立安静呼吸に対する他の3条件について各区画での体積変化の比較を行った.また,直立座位,後傾座位の姿勢変化とそれぞれの姿勢に対して安静呼吸,深呼吸の4条件について胸郭の高さごとの体積変化の比較を行った.統計学的判断は, 直立安静呼吸に対する他の3条件について各区画での体積変化の比較にはSteelの検定を行い,胸郭の高さごとの体積変化の比較には二元配置分散分析後にTukeyのHSD検定を行い,危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき計画し,国際医療福祉大学大学院倫理委員会の承詰を得た.さらに,本研究はすべての対象者に本研究の目的と内容を説明し, 文章による研究参加への同意を得た後に実施した.【結果】 直立安静呼吸に対する後傾安静呼吸の体積変化の比較では,胸骨切痕~剣状突起で体積が減少し,剣状突起~臍で体積が増加した.2姿勢間の各分節での体幹傾斜角度は,第8肋骨より上位では後傾座位で屈曲が有意に大きく,第10肋骨では後傾座位で伸展を示した.直立座位,後傾座位に対する安静呼吸,深呼吸の胸郭の分節ごとの体積変化量は,安静呼吸では,第3肋骨から剣状突起で直立座位に比べ後傾座位で変化量が有意に増加,深呼吸では,第3肋骨から剣状突起で直立座位に比べ後傾座位で変化量が有意に減少を示した.【考察】 体幹の各分節の傾斜角度と体積変化の関係をみると,後傾座位安静呼吸で体積変化が増加した下部胸郭は、体幹の傾斜角度の変化が小さい分節であった.後傾座位による姿勢の影響が小さいため体積変化が増加したと考えられる.また,後傾座位は剣状突起より上位では傾斜角度が大きく,深呼吸では体積が大きく減少した.このことから,姿勢による傾斜角度の変化が大きい分節では,安静呼吸のような小さな換気でも換気量を増やすことができず、深呼吸のような大きな換気を求められると容易に換気量が減少することが認められた.このことは,脊柱後彎のような後傾座位に類似した胸郭形状を有するときや,剣状突起より下位胸郭で術創部のような可動制限が生じる場合には,呼吸機能に影響を与える可能性があり,十分考慮する必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,胸郭形状によって影響を受け換気量が低下する部位とその部位を補正するように運動を変化させる部位の関係性が示された.骨盤後傾座位の胸郭体積変化から呼吸機能の特徴を示すことができた.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top