抄録
【はじめに、目的】内側広筋斜頭(VM)は,膝関節の保護や支持性に重要な役割を担うほか,膝蓋骨の外側偏位を抑制する特異的な機能を持つ.また膝関節疾患においてVMは筋萎縮を起こしやすく,外側広筋(VL)と比較し筋力増強運動への反応が遅いとされる.膝蓋大腿関節症(PFPS)患者ではVMの筋活動低下が指摘されるなど,VMの萎縮によるVLとの不均衡が問題とされ,VMを優先的に収縮できる運動が模索されている.先行研究において様々な方法が検討されているが,統一した見解は得られていない.また膝関節の静的アライメント(膝アライメント)に関して,外反膝の者は内反膝の者に比べQ-angleが大きいとされ,Q-angleが増大すると,膝蓋骨にかかる外側方向への牽引力に対しVMが対立する力を発揮するため,VMが肥大するとされる.よって膝アライメントの違いで大腿四頭筋の筋収縮様式が異なる可能性が考えられ,膝アライメントの影響を考慮せずVMの優先的収縮運動を行ってもいいのか不明である.そこで本研究は,開運動連鎖における運動方法の違いによるVMの優先的収縮の状態を比較すること,膝アライメントの違いがVM,VLの筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常女子大学生とし,膝関節の内外反度を測定するスクリーニングを88名に行い,内反度の大きい9名(内反群),外反度の大きい6名(外反群),中間群10名を選出した.測定肢は非利き脚とし,測定肢位は股関節屈曲90度・膝関節屈曲60度の背もたれ端座位とした.1.膝伸展+脛骨内旋運動(Int-ro),2.膝伸展+脛骨外旋運動(Ext-ro),3.膝伸展+股関節内転運動(Add),4.大腿四頭筋セッティング(Set)の4種目の膝関節伸展最大等尺性収縮(MVC)運動を5秒間行った.運動回数は各運動それぞれ3回行った.各運動中の表面筋電図をVM,VLから導出し,記録した5秒間の中央3秒間の二乗平均平方根(RMS)を算出した.算出されたVM,VLのRMSを,膝屈曲60度・膝内外旋中間位での膝関節伸展MVC時のRMSで除し正規化した.また正規化したVMをVLで除し,VM/VL比を求めた.運動種目の違いと膝静的アライメントの違いがVM/VL比に与える影響の検定として,繰り返しのある二元配置分散分析を用い,事後検定としてTukeyの方法を用いた.また,各種目におけるVMとVLの筋活動量の比較として,対応のあるT-検定を用いた.有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得ており,被験者に測定手段,運動方法を口頭にて説明し,文書にて同意を得た上で,実験を開始した.【結果】VM/VL比は運動種目間において主効果が認められた(p<0.001)が,膝アライメントにおいては認められなかった.4種類の運動種目間のVM/VL比の比較では,AddのVM/VL比が1.64±1.2で他の3種目よりも有意にVM/VLが高く(p<0.01),SetのVM/VL比が0.705±1.1で他の3種目よりも有意に低かった(p<0.05).VMとVLの筋活動量の比較では,AddにてVMの筋活動量は135であり,VLの86.4よりも有意に高く(p<0.00005),他の種目では有意差は認められなかった.【考察】今回の実験結果では,大腿四頭筋の筋収縮に股関節内転筋を同時収縮させたAddが,他の3種目に比べ有意にVM/VL比が高く,VMの優位な活動が認められたことから,MVC時ではAddを行うことが,VMの優先的な収縮おいて最も効果的であることが示唆された.これは,VMの大部分が大内転筋より起始するということと、筋電図と筋張力に相関があるとされることを踏まえ,股関節内転筋の収縮により牽引されVMの筋張力が増加し,それに抗するため筋活動量も上昇したと考える.膝アライメントとVM/VL比に関しては,内反群,中間群,外反群の3群間のVM/VL比において有意差は見られず,VMの優先的収縮において,膝アライメントの影響は無かったと考えられる.今回の内外反度を用いた膝アライメントの分類方法では,Q-angleに有意差がなかった可能性が考えられ,今後はQ-angleの違いによって群分けを行い,VM/VL比の比較を行う必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】VMの萎縮が考えられる患者に対し運動療法を行う際,VMの優先的収縮を行える運動を行うことが筋のアンバランスの改善に有効であり,その運動種目としては,膝関節伸展運動に股関節内転筋の同時収縮を付加することが最も効果的であることが示唆された.