抄録
【はじめに、目的】変形性股関節症(OA)で低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)後の股関節機能について検討を重ねている。歩容の改善は歩行効率向上につながり、臨床上、歩行指導に重要なものと考えられる。術後トレンデレンブルグ徴候やデシャンヌ徴候といった跛行が軽減してくるのは、下肢筋力の回復に関係があると考えられた。そこで今回は、下肢筋力と歩容の変化についてMIS-THA群について検討しさらに健常群で比較検討した。【対象】MIS-THA群は、2012年1月~2月までの2か月間に当院で前外側法のMIS-THAを初回片側に施行した7例9股、平均年齢53.1±10.5歳、男性1例、女性6例、身長152.6±5.0cm、体重58.2±9kg、BMI24.9±2.7、脚長差1.8±0.8cmであった。健常群は、平均年齢54.5±4.3歳、全例女性10例、身長154.9±3.5cm、体重52.5±7.9Kg、BMI21.9±3.2であった。両群のBMIにのみ有意差が認められた(p<0.05)。【方法】筋力は徒手筋力検査法に基づき股関節屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋、膝関節伸展、屈曲、足背屈、底屈筋力についてOG技研社製アイソフォースGT-300を用いて測定した。筋力は体重よりトルク体重比(N/Kg)を算出した。歩容は,デジタルビデオカメラで撮影し前額面から体幹の傾き、骨盤の傾き角度を映像解析ソフトウェアDart Fishを用いて測定した。10m歩行時間は独歩で快適速度とした。股関節機能判定基準(HHS)を評価した。 MIS-THA群の測定時期は術前、術後1週、2週、1カ月とした。また、MIS-THA群と健常群の比較は、筋力、歩容、歩行時間とした。歩容は、改善したと思われたMIS-THA群の術後1ヵ月と健常群の左右の平均とした。MIS-THA群の各時期の比較の統計処理には反復分散分析を行い、多重比較にはBonferroni法を用いた。MIS-THA群と健常群の統計処理は、Mann-Whitney U検定用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院と秋田大学大学院研究倫理審査委員会にて承認をうけ、対象者に説明し書面での同意を得て実施した。【結果】MIS-THA群の筋力は、股関節屈曲が術前に比し術後1週で有意に低下した(p<0.05)が、術後2週、術後1カ月で術後1週よりも有意に向上した(p<0.05)。股関節伸展筋力は、術前に比し術後1週で有意に低下した(p<0.01)が、術後1カ月で有意に向上を示した(p<0.05)。膝屈曲筋力は、術後1週に比し術後2週、術後1カ月で有意に向上した(p<0.05)。足背屈筋力は、術後1週に比し術後2週(p<0.05)、術後1カ月(p<0.01)で有意に向上した。他の筋力は有意な変化を認めなかった。体幹は、術後1週で術前に比べ患側への傾きが大きくなるが、術後2週、1カ月で傾きが小さくなるものの有意差は認められなかった。骨盤の傾きは、術前に比べ術後は小さくなり、術前に比し術後1ヵ月、術後1週に比し術後2週で有意差を認めた(p<0.05)。脚長差は、0.1±0.2cmに補正された。10m歩行時間は、術後1週に比し、術後2週(p<0.05)、術後1カ月(p<0.01)で有意に短縮した。HHSは、術前に比べ術後で有意に向上した(p<0.05)。健常群と比し筋力は股関節伸展を除いた股関節屈曲、外転、内転、足背屈、底屈(p<0.01)、股関節外旋、内旋、膝関節伸展、屈曲で有意差を認めた(p<0.05)。体幹の傾きは、患側立脚中期~後期にかけて有意差を認め(p<0.05)、骨盤の傾きに有意差は認められなかった。歩行時間は、健常群と比し有意に遅かった(p<0.05)。【考察】術後1週で股関節伸展筋力が低下した原因は、術後1週間、股関節軽度屈曲・外転位の良肢位を保っていることと、術後一時的に筋力は発揮しにくくなることが考えられる。術後1週を過ぎると、術創部の回復とともに筋収縮が向上してくる傾向があることから今後筋力回復に合わせたトレーニングの方法を工夫する必要がある。歩行時の体幹の傾きが、術後1週を過ぎてから減少してくるのは股関節周囲筋力の回復に関係があると考えられる。骨盤の傾きが、術後1週から改善を示した。要因は、脚長が補正されたこと、股関節周囲筋力が向上を示したことが考えられる。MIS-THA群が健常群に比し、術側下肢筋力、歩行時間の低下が認められたのは、OAによって術前から日常の活動性が低下していると考えられた。体幹の傾きに有意差がみられたということは、術後1ヵ月では跛行が残存していたためと思われた。これは、筋力の回復だけでなくOAがあるため習慣的な歩行状態になっているとも考えられた。術後、歩容の改善に向け体幹の動きにも着目し理学療法指導を実施する必要があると思われた。【理学療法学研究としての意義】歩容の改善を図ることは、歩行効率を上げることにつながり、ADL、QOLの向上につながるだけでなく、患者様の満足度を向上させより充実した生活を送れることにつながると考えられる。