抄録
【はじめに、目的】 厚生労働省は、介護予防事業における特定高齢者の選定基準を定めている。その中の生活機能評価の一つとして、基本チェックリストを作成している。基本チェックリストとは、運動機能・栄養状態・口腔機能・閉じこもり・認知症・うつ状態に関する全25項目の質問からなり、高齢者の生活機能低下の可能性を把握する事と、該当質問項目により介護予防が必要な特定高齢者を簡便に選定する事を目的とするものである。基本チェックリストの中には、運動器の機能向上、栄養状態改善、口腔機能の向上、閉じこもり予防・支援、認知症予防・支援、うつ状態予防・支援が必要とされる者の選定に関しては、特異的項目が明示されているが、高齢者の活動度やQOL低下に影響を及ぼす因子の一つであるといわれている尿失禁を有する者に関しては特異的項目が示されていない。そこで、本研究の目的は、尿失禁を有する地域在住高齢女性の生活機能評価として基本チェックリストを用い、尿失禁に関連する特異的項目を抽出し、明らかにする事とした。【方法】 対象は、平成22年4月から平成23年12月の間に介護予防事業の一環として当法人で開催された尿失禁予防教室(3ヶ月1クール全8回)に参加した地域在住高齢女性71名(年齢75.6±6.0歳、身長150.2±6.5cm、体重51.1±9.6kg、BMI22.6±3.8)とした。教室開始時の尿禁制および尿失禁に関するアンケート(尿失禁の頻度・失禁タイプ・1日の排尿回数・1回失禁量・排尿の間隔・夜間排尿回数)をもとに尿失禁あり群となし群に分類し、生活機能評価の基本チェックリスト全25項目を2群間で比較し、尿失禁に関連する項目を抽出した。統計解析はχ2乗検定を用いた。統計学的有意水準はP<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には参加申し込み時に、教室内容について口頭にて十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 尿失禁予防教室開始時に尿失禁を有するものは全体の42.3%であった。尿失禁あり群となし群の2群間の年齢・身長・体重・BMIに有意差は見られなかった。尿失禁あり群は、尿失禁なし群と比較して有意に運動機能に関する項目の中の階段昇降能力が低く、最近1年間での転倒歴が多かった。また、有意差はでなかったものの、運動機能に関する項目の中の椅子からの立ち上がり能力および連続歩行距離と閉じこもりに関する項目の中の外出頻度が低い傾向にあった。また、うつ状態に関する項目は高い傾向にあった。【考察】 結果より、尿失禁あり群は基本チェックリスト25項目のうち4つの運動機能項目に関して、低下していることがわかった。先行研究でも、尿失禁を有する高齢者では、尿失禁を有さない高齢者と比較して、筋力・バランス・歩行能力などの運動機能が低下する事が示されている。今回の結果からも、尿失禁を有する高齢者の運動機能低下が示唆された。また、尿失禁は、直接生命に関わる疾患ではないが、活動度の低下やQOLの低下に影響を及ぼす因子の一つである。本調査からも、閉じこもりやうつ状態の傾向が示唆された。我が国では60歳以上の高齢女性の50%以上に尿失禁があると報告されている。この現状をふまえると、運動機能項目の低下が疑われる高齢女性に対しては、尿禁制および尿失禁に特化した質問事項を聴取する必要性があるのではないかと考える。しかし、一方で尿失禁は女性に特有の悩みであり、また羞恥心からなかなか人に打ち明けられないということも十分に考えられる。その為、尿禁制および尿失禁に関する質問事項を基本チェックリストの中に加えてしまうと、対象者が回答しにくいという事も懸念され、現状を把握できない恐れがある。その為、基本チェックリスト25項目のうちの運動機能項目に問題がある者に対して、ある程度関係性が築かれた後で、同姓が尿禁制および尿失禁に関する質問事項の聴取を行うなどの個別の配慮をしながら評価をすすめていくことも有効ではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 介護予防の為には、生活機能が低下し要支援・要介護状態になるおそれのある高齢者を早期に発見し、介護予防への効果的な取り組みにつなげることが重要であるとされている。生活機能評価の基本チェックリストを用いて特定高齢者を選定する際、運動機能が低下している女性には、尿禁制・尿失禁に関する質問事項を聴取する事で、より対象者に合致した介護予防事業への促しにつながると考えられる。