抄録
【はじめに、目的】仕事量を同一にした低強度から高強度の持続的運動では,動脈機能の改善には差がないことが報告されているが,高強度運動では運動中の血圧,心拍数の上昇および致死的不整脈を発生させる可能性がある.一方,インターバルトレーニングは動脈機能の改善に有効であるが,その運動強度と動脈機能との関係については十分に検討されていない.そこで本研究では,異なる運動強度による短時間のインターバルトレーニングが動脈機能に及ぼす影響を検討した.【方法】被験者は,成人男性43名 (24.0±2.9歳) であり,高血圧治療ガイドラインによる1度高血圧に該当する2名を除外した41名を80%V(dot)O2maxの高強度および50%V(dot)O2maxの中強度運動によるインターバルトレーニング (HM群;11名),80%V(dot)O2maxの高強度および37%V(dot)O2maxの低強度運動によるインターバルトレーニング (HL群;10名),高血圧治療ガイドラインで推奨されている50%V(dot)O2maxの中強度の持続的トレーニング (CMT群;10名) およびコントロール (CON群;10名) に無作為割付した.HM群,HL群およびCMT群は,運動時間を各個人の運動時の相対的な仕事量を同一にするために,それぞれ24.6分,30分および30分間とし,自転車エルゴメータを用いて週3回の頻度で8週間のトレーニングを実施し,CON群は8週間を観察期間とした.トレーニング期間前後に動脈機能の評価として,血圧脈波検査装置 (form PWV/ABI:オムロンコーリン社製) を用いて,約15分間の仰臥位安静後に収縮期血圧 (SBP),拡張期血圧 (DBP),心拍数 (HR),脈圧,上腕-足首動脈間の脈波伝搬速度 (baPWV) をトレーニング期間前後に測定した.また,トレーニングの効果を検討するために,トレーニング前後の各測定項目の変化率 [ (トレーニング後-トレーニング前)/トレーニング前 × 100 ] を算出し,群間比較は一元配置分散分析後にTukey検定を行った.なお,危険率は5%未満を有意水準として採用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,徳島大学総合科学部人間科学分野における研究倫理委員会の承諾を得たものであり,対象者には事前に文章および口頭にて研究内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中断などについて説明し,承諾を得た後に研究を開始した.【結果】トレーニング期間前後のHM群,HL群,CMT群およびCON群のbaPWVの変化率については,-8.4±6.2%,-2.1±5.5%,-2.4±3.8%,-0.2±4.4%であり,HM群とHL群,CMT群およびCON群との間に有意な差が認められた (p<0.05).SBPは,それぞれ-1.2±5.8%,-0.1±5.4%,-0.9±3.9%,0.7±4.2%であり,DBPは,それぞれ-4.0±8.3%,-1.6±5.7%,-1.0±7.4%,-3.8±7.3%であり, HRは,それぞれ-2.1±8.1%,1.0±3.6%,0.0±6.9%,-0.4±6.2%であり,各群の間に有意な差が認められなかった.【考察】従来のインターバルトレーニングでは,運動時間が40分程度,運動強度が80%VO2max以上,トレーニング期間は12から16週の研究が報告されている.それに対して本研究では,15分程度の運動時間を短縮し,4から8週間のトレーニング期間を短縮してもbaPWVの変化率は,HM群とHL群,CMT群およびCON群との間に有意な差が認められた.これは,HM群では高強度運動によりCMT群と比較して,エピネフリン濃度が上昇することで心筋収縮力が増大し,shear stressが増加することにより,血管拡張物質である一酸化窒素 (NO) をより一層放出させる一過性の変化が定期的な運動により持続的に生じたと考えられる.また,血管拡張作用のある心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) は,心房内圧の上昇により分泌が促進されると報告されている.心房内圧に関連する静脈環流量は運動強度の上昇とともに増加するために,高強度運動および中強度運動で構成されるインターバルトレーニングでは,HL群およびCMT群と比較して分泌が促進していると考えられる.そのために,HM群ではHL群と比較してbaPWVの値が低下したと考えられる.本研究により,80%V(dot)O2maxおよび50%V(dot)O2maxで構成される短時間のインターバルトレーニングは,仕事量が同一であれば80%V(dot)O2maxおよび37%V(dot)O2maxで構成されるインターバルトレーニングおよび高血圧治療ガイドラインで推奨されている中強度の持続的運動より,動脈機能を改善することが示された.【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,短時間の高強度運動の負荷に耐えられる若年から中年層の方が高強度および中強度のインターバルトレーニングを実施することで,50歳代の男性で発症する急性心筋梗塞の一次予防につながる可能性があることが示唆された.