理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-03
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セレクション口述発表
ラット足関節不動モデルに対する振動刺激の効果 ‐不動早期からの感覚入力は痛覚過敏の発生を抑制する‐
濵上 陽平関野 有紀中願寺風香 風香中野 治郎沖田 実
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キーワード: 不動, 痛み, 振動刺激
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抄録

【はじめに、目的】我々は不動に由来する痛覚過敏についてラット足関節不動モデルを用いた研究を重ね,これまでに不動は1 〜2 週という早期から痛覚過敏を惹起し,長期間におよぶと後根神経節(DRG)や脊髄後角における神経ペプチドの発現状況が変化して中枢性感化が引き起こされ,慢性痛に移行することを明らかにした.また,複合性局所疼痛症候群の患者に対して振動刺激による感覚入力を行うと症状が軽減したというAndreら(2007)の臨床研究を参考に,同モデルの不動直後から振動刺激を負荷したところ,不動に由来する痛覚過敏が軽減することが明らかとなった.しかし,実際の臨床においては,理学療法が開始された時点で既に不動に由来すると思われる痛覚過敏が発生している場合がしばしばあり,そのようなケースにも振動刺激は上記と同じような効果を発揮するのかは不明である.そこで今回,8週間のラット足関節不動モデルに対して,振動刺激による感覚入力を不動開始直後および不動4 週後から開始し,足底の痛覚過敏およびDRG,脊髄後角における神経ペプチドの発現状況について検索した.【方法】8 週齢のWistar系雄性ラット34 匹を無処置の対照群(n=5)とギプスを用いて右側足関節を最大底屈位の状態で8 週間不動化する実験群(n=29)に振り分け,実験群はさらに不動のみを行う群(不動群;n=10),不動直後より振動刺激を開始する群(振動群;n=10),不動4 週後より振動刺激を開始する群(4 週不動+振動群;n=9)に分けた.振動群と4 週不動+振動群に対する振動刺激は,バイブレータ(メディアクラフト社製)を用い,右側足底部に15 分間,1 日1 回,週5 日の頻度で行った.また,実験期間中は週1 回,機械刺激に対する痛み反応の評価として,von Frey filament(VFF;4,15g)刺激を右足底に10 回加え,その際の逃避反応の出現回数をカウントした.実験期間終了後,ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定した後に右側DRGならびに腰髄(L4-5)を採取し,その凍結切片に神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫組織化学的染色を施した.そして,DRGにおけるCGRP陽性細胞数と断面積,脊髄後角におけるCGRP陽性線維の染色強度を解析した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】不動群では4,15gのVFF刺激に対する逃避反応の出現回数は有意に増加したが,振動群では4gのVFF刺激に対する逃避反応は実験期間を通して対照群と有意差を認めず,15gのそれは増加したものの不動群に比べ有意に低値であった.一方,4 週不動+振動群は4,15gのVFF刺激に対する逃避反応の出現回数は不動群と同程度の増加を示し,不動群との間に有意差を認められなかった.次に,DRGにおけるCGRP陽性細胞数はすべての群で有意差を認めなかったが,その断面積を比較すると,対照群に比べ他の3 群はすべて有意に高値を示した.また,この3 群間で比較すると振動群は不動群より有意に低値を示したが, 4 週不動+振動群は不動群と有意差を認めなかった.同様に,脊髄後角の浅層,深層におけるCGRP陽性線維の発現強度においても対照群に比べ他の3 群は有意に高値を示したが,振動群は不動群に比べ有意に低値を示し,4 週不動+振動群は不動群と有意差を認めなかった.【考察】不動群においてVFF刺激に対する逃避反応の出現回数が増加したことから,不動に由来する痛覚過敏が発生していたと考えられ,これは先行研究と同様である.これに対して,不動の早期から振動刺激による感覚入力を行った振動群では痛覚過敏が軽減したが,4 週間の不動によりすでに重度な痛覚過敏が発生していた4 週不動+振動群に振動刺激を行っても痛覚過敏は軽減しなかった.加えて,不動に由来する痛覚過敏の一要因と思われるDRGのCGRP陽性細胞の大型化,脊髄後角におけるCGRP陽性神経線維の増加は,振動群のみで抑制されており,不動の早期から振動刺激による感覚入力を行った場合のみ中枢性感作の発生を抑制することができると推察された.したがって,不動に由来する痛覚過敏の発生,およびその慢性痛への移行を予防するためには早期から感覚入力を行うことが重要であり,その手段として振動刺激は有用であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】末梢に対する振動刺激による感覚入力は,骨折後にギプス固定,創外固定などのケースにおいても応用可能であり,その効果と開始時期の影響を明らかにした本研究は理学療法研究として十分な意義がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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