抄録
【はじめに、目的】骨格筋が強度に損傷されると、未熟な筋線維が残存する再生不全や筋線維タイプ構成比の変化などが生じるといわれている(Murakami et al.,1990)。従って、挫傷など強度な筋損傷ではこれらのことを考慮して治療する必要がある。温熱刺激が骨格筋の再生を促進するという報告がある(Yasuhara et al., 2009)。またOishiら(2009)は、温熱刺激が再生骨格筋の筋線維タイプ構成比に及ぼす影響を検討し、筋線維タイプ構成比が損傷前と大きく変わったと報告した。しかし、Oishiらが調べたのは損傷後2 週で、筋再生が完了するのは損傷後3 週といわれており(A.X.Bigard et al.,1996)、損傷筋における筋線維のタイプ変化は、筋再生完了後を含め、もっと長期間にわたる検討が必要である。従って本研究では、損傷直後に与える温熱刺激が再生骨格筋の成熟および筋線維タイプ構成比の変化に及ぼす影響を長期的・経時的に観察した。【方法】本研究では8 週齢のWistar系雄ラット36 匹を用い、対照群、損傷群、温熱群の3 群に分けた。筋挫傷は先行研究(Furuta,2001)に倣い、露出した長指伸筋(EDL)の筋腹を500gの錘を負荷した鉗子で30 秒間圧挫して与えた。皮膚縫合後、温熱群では損傷5 分後から42℃のホットパックを皮膚に当てて20 分間の温熱刺激を実施した。その後、損傷後2、4、6、8 週の4 時点で、ラットを麻酔し、EDLを摘出した。また、対照群では損傷筋の摘出時点と同週齢のラットからEDLを摘出した。摘出した筋標本を使ってH-E染色、pH4.5 の前処理を行ったmyosin ATPase染色、SDH染色を施した。再生筋における成熟度の指標として中心核を有する筋線維の割合を算出した。また連続切片の所見から、筋線維タイプ構成比および中心核を有する筋線維のみのタイプ構成比を算出した。統計処理は一元配置分散分析およびSceheffeの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得た上で実施した。【結果】中心核を有する筋線維の割合は、損傷群、温熱群ともに損傷後2 週から8 週まで経時的に減少したが、温熱群は損傷群に比べて常に低値を示した。筋線維タイプ構成比では、対照群のEDLにおいてtypeⅡD/Xは38.7%、typeⅡBは41.0%とほぼ同値であったが、損傷後2 週において損傷群、温熱群ともにtypeⅡD/Xは70%弱(損傷群66.7%、温熱群65.5%)、typeⅡBは両群ともに20%(損傷群20.0%、温熱群20.3%)であった。その後typeⅡD/Xの割合は減少し、typeⅡBの割合は増加して、損傷群では損傷後8 週でtypeⅡD/X43.4%、typeⅡB37.7%となり、対照群と同レベルまで回復した。一方、温熱群では損傷後6 週において既に対照群と同レベルまで回復していた。また、中心核を有する筋線維のタイプ構成比をみると、損傷後2 週において両群ともにtypeⅡD/Xが高値(損傷群73.0%、温熱群73.5%)、typeⅡBが低値(損傷群17.9%、温熱群18.2%)を示したのち、損傷群は損傷後6 週から8 週の間に大きく変化し、損傷後8 週でtypeⅡB(66.0%)がtypeⅡD/X(28.8%)よりも高値を示すようになった。温熱群の中心核を有する線維では損傷後4 週から6 週の間に著明な変化が起こり、損傷後6 週の時点で既にtypeⅡB(60.7%)がtypeⅡD/X(33.0%)よりも高値となっていた。【考察】ラットにおける骨格筋の再生は、組織学的には損傷後3 週で完成すると報告されているが(A.X.Bigard et al.,1996)、今回の実験が示すように、中心核を有する筋線維の割合は筋再生が完了すると言われている損傷後3 週を過ぎた4 週においても30%を超えるほど多く、損傷群の筋線維タイプ構成比も損傷後8 週で対照群と同レベルまで回復していた。これは、挫滅のような強度の筋損傷では、筋線維タイプを含めた筋再生の完了にはもっと長い期間、少なくとも8 週間ほど要することを示している。これに対して、温熱群では中心核を有する筋線維の割合は損傷群に比べ常に低値を示していたことから、温熱刺激は再生骨格筋の成熟を促進していると考えられる。また、その多くが再生過程にある未熟な筋線維であると考えられる中心核を有する筋線維だけをとってみても、筋線維タイプ構成比に関して、損傷群では損傷後6 週から8 週にかけて大きく変化していたが、温熱群ではこのような変化が損傷後4 週から6 週にかけて起こり、筋線維タイプ構成比が損傷後6 週で既に対照群とほぼ同じ値に戻っていた。これは、温熱刺激が筋線維タイプ構成比の回復をも早めている可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究は、温熱刺激が挫滅損傷後の骨格筋の再生に与えた影響を、筋線維タイプの構成比を指標にして、長期的、経時的に観察したものである。本結果は温熱刺激が再生筋における筋線維タイプ構成比の回復をも促進する可能性を示している。