理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-21
会議情報

ポスター発表
手指への触覚刺激における入力方法の相違が皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響−経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位を用いた検討−
大植 賢治市村 幸盛湯川 喜裕平本 美帆富永 孝紀
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】脳卒中片麻痺患者の運動機能回復には,手指への触覚刺激の入力に伴う感覚運動野の応答性増加が寄与する(Schaechter JD 2011)ことから,対象物との接触を通して一次運動野(M1)を含めた運動関連領域を活性化させられる課題設定が重要である. 他動的に触覚刺激を入力する方法は,固定させた身体に対して対象物を動かす方法と,固定させた触覚刺激に対して身体を動かす方法がある.前者の方法では,触覚刺激の情報処理に頭頂連合野が関与する(Kitada 2003)とされているが,触覚刺激を他動的に入力するだけでは,M1 を賦活させるには不十分である.また,後者の方法では,脳活動の検討および前者の方法と比較した報告が少ない.以上のことから,他動的に触覚刺激を入力する際には,身体を動かす後者の方法が,対象物を動かす前者の方法と比較して,よりM1 を賦活させられるのではないかと仮説立てた.本研究では,健常成人を対象に,手指への触覚刺激における入力方法の相違が,M1 の神経活動動態に及ぼす影響について経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用いて検討した.【方法】対象は,右利きの健常成人8 名(男性3 名,女性5 名,年齢25.1 ± 3.4 歳)とした.被験者は,椅子座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した.課題は,検者が被験者の右中指の指腹を素材パネル上に接触させて保持した状態で実施し,条件AとBを設定した.条件Aでは,検者は被験者の手指を固定して動く素材パネルに注意を向けるよう指示し,素材パネルを他動的に動かして実施した.条件Bでは,検者は素材パネルを固定して被験者に右中指の他動的な運動に注意を向けるよう指示し,右中指MP関節を他動的に動かして実施した.課題中は,被験者から右手が見えないように台を設置し視覚遮断下にて実施した.課題中のTMSは,磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8 の字平型コイルを用いた.またMEPは,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1 背側骨間筋から記録した.刺激は,筋放電が認められないことをモニターにて確認後,右中指または素材パネルを動かしてから約2 秒後に,左M1 の手指領域の直上に行った.左M1 への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3 次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した.刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時および各課題中のMEPを10 〜15 回ずつ測定し,MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比を算出した.統計学的処理は,条件AとBにおけるMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意を得られてから実験を行った.【結果】MEP振幅比は,条件A;1.4 ± 0.8, 条件B;2.3 ± 1.2 であり,条件Aと比較して,条件Bが有意に高い値を示した(p<0.05).【考察】他動的な触覚刺激の入力において,固定させた手指に対して素材パネルを動かす条件Aよりも,固定させた素材パネルに対して手指を動かす条件BでMEP振幅比に高い値を示した.他動的な手指の動きを伴わない触覚刺激に対する注意は、一次体性感覚野の応答性を増減させる(Iguchi 2005)ことから,手指の動きではなく素材パネルの動きに注意を向けさせた条件Aでは,M1 の神経活動動態の興奮性の増加には至らなかったと考えられた.一方,条件Bでは他動的な手指の動きを伴わせ,さらに手指の動きに注意を向けさせたことによって,被験者が自ら右中指を内外転させているように知覚しながら素材パネルに触れている課題設定となり,条件AよりもM1の神経活動動態の興奮性を高められたことが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,素材パネルを用いた他動運動による触覚刺激の入力方法の相違が,M1 の神経活動動態の興奮性を変化させることを示唆した報告であり,脳損傷によって重度な運動麻痺を呈した症例への触覚を用いた課題の難易度を検討する上で基礎的な指標となる.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top