抄録
【目的】近年,東日本大震災による影響から防災意識の高まりとともに一般市民参加による地域での取り組みが全国的に行われている一方、在宅での要介護者に対する災害時対策はまだ十分ではない。西岡ら(2010)は,在宅療養中の方の介護者に避難意識の調査についてのアンケートを行い,避難時の移動手段の問題などを報告しており、要介護者への災害時対策は急務であると述べている。現在においても、在宅要介護者の災害時避難に対する調査は少なく、さらに災害時の避難行動に要介護者の日常生活機能や移動介助量がどのように関係しているかを明らかにした報告はない。そこで,本研究は要介護者の災害時避難に対する現状を明らかにし、避難行動に日常生活機能や移動介助量がどのように関係しているかを検討することである.本研究は(財)勇美記念財団による研究助成により実施した.【方法】対象は徳島県鳴門市内の訪問リハビリテーション事業所(全6ヶ所)を利用している在宅要介護者(要介護度1~5)の介護者119名(69.2±12.0歳)とした.調査方法は鳴門市内の全訪問リハビリテーション事業所から、自宅訪問にて対象となる要介護者と介護者へ個別面接での聞き取り形式で意識調査を行った.調査期間は、平成24年8月1日から平成24年10月31日までとした.調査内容は,要介護認定者には年齢,性別,要介護度,疾患分類,屋外移動レベル,Barthel Index(BI)等,介護者には年齢,性別,要介護者との続柄,健康状態,要介護者の移動介助量,避難意思の有無,避難しない理由,災害時対応マニュアルの有無等とした.これら調査内容から,要介護者と介護者の属性や各回答の傾向を確認し,さらに避難意思の有無別でのBIや屋外移動レベルの状況や関係,移動介助量からみた避難意思の有無について検討した.分析方法はSPSS(17.0J for Windows)を使用し、要介護者と介護者の属性や各回答には単純集計、避難意思の有無におけるBIの比較にはMann-Whitney検定を用いて検討した.なお,統計解析には危険率5%未満を有意差判定の基準とした.【説明と同意】本研究の開始にあたり当院倫理審査委員会および鳴門山上病院倫理委員会の承認を得た.また,対象者には研究概要を口頭及び紙面にて説明し,同意の署名を得た後に実施した.【結果】要介護者の年齢は78.5±10.0歳,半数が80歳以上であり,疾患分類の上位は骨関節疾患37.8%,中枢神経疾患30.3%であった.介護者の年齢は69.2±12.0歳,女性が65.5%,半数が70歳以上であり,不健康また病気治療中の人が17.2%であった.避難意思の有無は避難する60.6%,避難しない39.4%であり,この2群間のBIは避難する75.0(55.0-85.0),避難しない50.0(15.0-75.0)で有意差(p<0.01)を認めた.また,要介護者の移動介助量は独歩レベル26.1%,1人介助レベル57.1%,2人以上での介助レベル16.8%であり,各レベルでの避難意思の有無については,独歩レベルで避難する61.5%,避難しない38.5%,1人介助レベルで避難する68.8%,避難しない31.3%,2人以上での介助レベルで避難する31.6%,避難しない68.4%であった.避難しない理由の上位は,自宅にいたい55.8%,避難所は不便55.8%,避難手段がない48.8%であった.災害時対応マニュアルは3.4%が保有していた.【考察】本研究の結果から,要介護者の災害時避難に関わる介護者は高齢の女性が多く,不健康や病気治療中の人も含まれているため,避難行動には介護者側の状況も影響を及ぼす可能性が明らかとなった.避難意思の有無については避難しないと回答した方が,全体の4割と多く,避難する人と比較すると有意にBIも低いことから要介護者の日常生活機能も避難意思の決定に関係すると考えられた.また,実際の避難移動では介護者側の移動介助量における負担の影響は大きいと考え,移動介助量を3段階に分類して避難意思の有無をみると,移動介助量が少ないほど避難する割合が多く,介助量が多いほど割合が低かった.介助量が少ないにも関わらず,避難しない人が3~4割と多かったことや避難しない理由の結果からみると,避難行動には他の要因も大きく影響していると考えられた.避難しないと回答した理由の中には,リハビリテーションの観点から解決可能な問題もあり,今後それぞれの要介護者や介護者の状況にあった支援の提案,専門的知識を活かした在宅要介護者の災害時対応マニュアル作成などを行うことが必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究にて要介護者の災害時避難に関する現状が明らかとなった.避難意思の決定には日常生活機能や移動介助量のみならず,多くの要因が関与している可能性があり,今後の在宅要介護者の災害時避難の対応への有用な資料となる可能性が示唆された.