抄録
【はじめに、目的】 高齢者における身体活動量の重要性は疾病予防や生命予後の観点から, 多くの先行研究にて報告されている。また, 高齢者の身体活動量を定量的に把握することは, 運動プログラム介入へと繋げる為の重要な指標となる。加速度計は身体活動量の客観的評価手法として頻用されるが, 統一された測定方法は確立されていない。特に測定期間に関しては1週間での測定にて評価している先行研究を多く見かけるが, その設定を裏付ける根拠が示されたものは少ない。さらに, 1週間で測定した身体活動量が翌週以降では差が生じると仮定するならば, 測定期間の信頼性としては正確ではない可能性がある。そこで, 本研究では単軸加速度計を用いて高齢者の身体活動量を2週間測定し, 1週目と2週目の身体活動量の差の比較により, 測定期間を1週間以上設けるべきか否かを検討した。【方法】 対象は長崎県在住の65歳以上の高齢者86名(76.7±5.1歳, 女性65名, BMI 23.0±3.8)とした。また, 補助具なしにて日常生活が自立し, 外出が可能な活動レベルの対象者のみを本研究の適応とした。除外基準として, 明らかに身体活動を制限する疾患(神経筋疾患, 脳血管疾患等)を有する者, Center for Epidemilogic Studies Depression Scale(CES-D)によりうつ症状のある者(CES-D≧16点)は本研究より除外した。評価項目は, 身体活動量の評価として単軸加速度計(Lifecorder GS, SUZUKEN)を用いて歩数(steps/day)と運動強度からエネルギー量に換算した運動量(kcal/day)を2週間測定した。身体活動量のデータ分析においては装着日及び回収日, 雨天日, 機器が装着されなかった日を除外したデータを1週目と2週目の身体活動量として比較検討した。歩数と運動量の統計値は中央値と最小値(min), 最大値(max)を使用し, 統計処理は1週目と2週目の身体活動量の差の比較をWilcoxonの符号付き順位和検定にて解析した。統計ソフトはPASWver.18を使用し, 有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者にはヘルシンキ宣言に則り, 書面及び口頭にて研究の趣旨, 倫理的配慮を説明し, 書面にて研究への参加に同意を得た。【結果】 1週目の運動量は118.0kcal/day (min:22, max:557), 歩数は5485.5steps/day (min:1175, max:18199), 2週目の運動量は109.0kcal/day (min:9, max:568), 歩数は5239.0steps/day (min:656, max:17419)であった。1週目と2週目における身体活動量を比較した結果, 運動量において有意差は認められなかった(p=0.278)が, 歩数では有意差を認めた(p=0.046)。【考察】 近年、身体活動量を評価するために様々な測定方法を用いた機器が発表されている。今回、身体活動量に影響を与えるうつ症状や天候によるバイアスを除外した状態で、動作によって生じる加速、減速により運動強度を推定できる単軸加速度計を用いて、異なった週での身体活動量の相違を比較検討した。その結果、運動量では有意差はなく、歩数では有意差を認めた。実際の歩数に加え, 身体の動きの強弱にて運動強度の測定も可能な運動量では差を認めなかったことから今回の1週目の運動量は2週目も同等であったと推察された。一方、1週目と2週目の歩数で有意差を認めた原因としては、今回使用した機器の歩数測定が加速度の強弱に関係なく行われる特性から差が生じたと推察された。よって、本機器を用いて歩数を活動量の評価項目とする場合の測定期間は1週間では十分ではない可能性が考えられた。以上のことから、身体活動量の測定期間を1週間以上設けるべきか否かは測定機器、測定項目により差を生じる可能性があることが考えられた。 先行報告では歩数が身体活動量を最も鋭敏に評価できると報告されているが、単に身体を動かした量だけでなく、運動強度も含めた運動量を測定する方がより正確な身体活動量を評価できると考える。今後は測定機器、各測定項目の特性を十分に考慮した上で、具体的な測定日数を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の身体活動量の評価は理学療法学分野においてもその重要性は高く, 客観的で信頼性の高い評価方法が求められる。本研究はその具体的な評価法を確立するための一助となる。