抄録
【はじめに】住宅改善は高齢者や障害者の継続的な在宅生活を送るために重要な支援である.様々な専門職が関与し,チームアプローチが重視される住宅改善において,理学療法士の役割の重要性が報告されているが,同時に理学療法士との連携が困難な場合があるといった指摘もある.【目的】本報告では理学療法士の住宅改善に関する支援として実施される自宅訪問の実態調査から,その背景となる要因を明らかにすることを目的としている.【方法】対象は日本理学療法士協会名簿(2009年度)に掲載されていた会員から自宅会員を除いた理学療法士3,795人を無作為抽出した.調査は質問紙によるアンケートで,調査票は郵送にて発送,回収した.有効回答数は1,529人(回収率40.4%)であった.調査期間は2010年8月初めから2ヶ月である.調査結果は住宅改善の介入経験がある1,163人を下記の自宅訪問の状況から三群に分け,クロス集計により分析,比較した.【倫理的配慮・説明と同意】本調査の主旨に理解を得られた場合に調査票を返信して頂く旨を記載した依頼文を調査票とともに配布した.また,本研究は和洋女子大学ヒトを対象とする生物学的研究・疫学的研究に関する倫理委員会から承認を受け実施した.【結果】(1)住宅改善への介入において対象者の自宅を訪問する頻度として「必ず訪問する」者(以下,必須群)の割合は47.5%(552人),「事例によって対応が異なる」者(以下,事例群)の割合は47.6%(554人),「訪問しない」者(以下,非訪問群)の割合は3.7%(43人)であった.(2)勤務機関は各群とも「病院」の割合(必須群61.2%,事例群80.5%,非訪問群81.4%)が最も高く,次いで「老健」の割合(必須群13.2%,事例群8.3%,非訪問群4.7%)が高かった.(3)勤務先の運営主体はいずれも「医療法人」の割合(必須群59.2%,事例群55.4%,非訪問群44.2%)が最も高かった.また,運営主体が「国」,「都道府県」,「市区町村」のいずれかである割合は必須群7.4%,事例群9.6%,非訪問群7.0%であった.(4)日常業務における主対象は必須群では「維持期患者」の割合(29.3%),事例群と非訪問群では「急性期患者」の割合(前者31.0%,後者44.2%)が各々最も高かった.また,主対象が「在宅生活者」である割合は必須群19.4%,事例群8.5%,非訪問群0.0%であった.(5)勤務機関の常勤理学療法士の平均人数は必須群10.9人,事例群15.0人,非訪問群13.0人であった.(6)各群の理学療法士としての平均経験年数は必須群9.0年,事例群9.0年,非訪問群7.3年であった.(7)1年間(2009年度)の住宅改善への平均介入件数は必須群3.3件,事例群2.8件,非訪問群1.8件であった.(8)自宅訪問を実施する具体的な支援内容は必須群及び事例群とも工事実施前の「住宅の物理的環境の確認」の割合(前者90.8%,後者89.0%)が最も高く,次いで両群とも工事前の「動作・ADLの評価」の割合(前者90.2%,後者86.5%)が高かった.(9)住宅改善後のフォローアップの形態に関して理学療法士が「直接自宅訪問して行う」とする割合は必須群26.4%,事例群7.6%であった.「自宅訪問しないで行う」の割合は必須群53.8%,事例群67.0%,非訪問群60.5%であった.【考察】住宅改善に介入する大部分の理学療法士が自宅訪問を実施した経験を有しているが,これらは必須群と事例群に大別される.両群が自宅訪問して行う具体的な支援内容は同傾向にある.また,必須群では勤務機関の常勤理学療法士の数が最少で,運営主体も他二群と同傾向にあり,これらの要因が自宅訪問を促進するような条件として作用しているものではない.しかし,日常業務における主対象は,他二群では急性期患者が最多であるのに対して,必須群では住宅改善以外にも在宅での支援の必要性が高い維持期患者や在宅生活者が多い.つまり,必須群では他の在宅支援との関連,併用の中で住宅改善に関する自宅訪問を実施していることを示唆している.また,非訪問群は勤務機関の条件は事例群と同傾向にある.ただし,経験年数や1年間の介入件数は他二群より低値であることから,これまで訪問の必要性のある対象者を担当する機会が少なかった可能性が示唆される.以上のように理学療法士の住宅改善における自宅訪問を検討する際には,住宅改善に限定した自宅訪問は困難な状況にあり,その実施には他の在宅支援と連動する方が容易であると考えられる.ただし,これらに影響を与える背景として,住宅改善に介入するための業務時間の確保や収益といった項目が推測されるが,これらの具体的な内容の把握については今後の検討課題となった.【理学療法学研究としての意義】住宅改善における自宅訪問の実施に影響を与える要因を明らかにし,今後の自宅訪問の促進について検討する視点を明らかにした.