抄録
【はじめに、目的】高齢人口の増加する本邦において、高齢者の健康寿命の延伸は大きな課題となっている。身体活動量は健康寿命と関連するとされ、さらに身体活動量の低下は加齢に伴う様々な因子と関連し疾病や障害発生をきたすとされる。したがって、疾病の適切な管理と同様に、定期的な身体活動を維持していくことが健康寿命の維持・延伸には重要となると考えられる。高齢者の身体活動量においては、身体機能の低下や低栄養、認知機能の低下、抑うつ傾向の増大など、様々な要因と関連することが報告されている。しかしながら、75歳以上である後期高齢者を対象に身体活動量を調査した報告は少なく、さらには後期高齢者の中でも比較的身体活動レベルの保たれた、いわゆる元気高齢者の特性は明らかとなっていない。そこで、本研究の目的を地域在住後期高齢者において、身体活動量の維持されている群と低下している群における違いを検討し、後期高齢者における身体活動量関連要因を検討することをした。【方法】本研究では、2012年に名古屋大学医学部保健学科山田研究室にて実施した高齢者フィットネス健診に参加した75歳以上の地域在住後期高齢者129名(平均年齢79.5歳、男性38名、女性91名)を対象とした。評価指標は身体活動量(歩数)、身体機能(身長、体重、Body Mass Index:BMI、上腕周囲径、下腿周囲径、握力、膝関節等尺性伸展筋力、10m最大歩行速度、10m快適歩行速度、最大一歩幅(下肢長補正)、腹囲、Modified Functional Reach Test:M-FRT)、栄養状態(Mini Nutritional Assessment:MNA)、認知機能(Mini Mental State Examination:MMSE)、遂行機能(Trailpmakingptest-A、B:TMT-A、B)、抑うつ(Geriatric Depression Scale5:GDS5)、運動ソーシャルサポートを測定した。身体活動量の測定にはライフコーダEX(スズケン社製)を用いた。1週間の日常生活活動量を記録し、一日あたりの平均値を身体活動量の指標とした。膝関節等尺性伸展筋力の測定にはハンドヘルドダイナモメータμTasF-1(ANIMA社製)を使用し、膝関節90°屈曲位における等尺性筋収縮を測定した。M-FRTは森尾ら(2007)を参考に実施し、12.4cmから60.0cmまで伸縮可能な指示棒であるアンテナボールペン(レモン社製)を用いて、肩関節屈曲90度で可能な限り前方へリーチし、短縮した指示棒の長さをメジャーで計測した。健康的な高齢者(平均年齢71歳)を対象としたTogo, et al(2005)の平均歩数を参考に、対象を歩数が6425歩以上を維持群、6425歩未満を低下群の二群に分けた。統計解析は、歩数が維持群、低下群の測定項目の差を対応のないt検定、Mann-WhitneyのU検定で検討した。その後、2群に有意な差が認められた項目に関して、ロジスティック回帰分析を行った。本研究の統計学的分析にはSPSS12.0を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は名古屋大学医学部生命倫理委員会疫学研究専門審査委員会の承認を得た(承認番号:2012-0131)。また、全ての対象者には健診実施前に紙面および口頭で本研究の目的と内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】非低下群は66名、低下群は63名であった。測定項目の中で、維持群と低下群との間で、年齢(p<0.01)、握力(p<0.01)、10m最大歩行速度(p<0.01)、10m快適歩行速度(p<0.01)、最大一歩幅(下肢長補正)(p<0.01)、腹囲(p=0.03)、TMT-A(p<0.01)、TMT-B(p<0.01)、抑うつの有無(p=0.04)に有意差が認められた。これらの因子を投入してロジスティック回帰分析を行ったところ、10m快適歩行速度(p<0.01)、最大一歩幅(下肢長補正)(p<0.01)、抑うつの有無(p=0.03)が抽出された。【考察】本研究は75歳以上の地域在住後期高齢者において、身体活動量の維持に関連する因子として、10m快適歩行速度、最大一歩幅(下肢長補正)、抑うつの有無が抽出された。後期高齢者の身体活動量に生命予後と関連するとされている快適歩行速度やバランス機能を表す最大一歩幅のような身体機能のみでなく、抑うつの有無も関連することが明らかとなった。今後さらに縦断的調査を行うことにより、これらの要因が身体活動量維持もしくは低下の予測因子となり得るかを検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究では後期高齢者における身体活動量の維持に関連する因子を抽出した。本研究にて抽出された因子は、後期高齢者における身体活動量の維持もしくは低下を予測するものであり、身体活動量維持の指標作成や、疾病・障害予防介入の立案に寄与することができるものと思われる。