抄録
【目的】作業関連性腰痛(WLBP)は1976年にWHO総会において提唱された姿勢と動作の特異性に発生原因が求められる作業関連疾患の1つである. この分野で世界をリードするフィンランドやオランダなど欧米における統制のとれた大規模な生産システムで開発された方法は、わが国の中小企業製造業における作業関連性腰痛の危険因子の管理に適応させようとすると、コストおよび専門的な知識と技術が必要とされ、難しいことが問題である. 中小企業製造業で働く従業員における簡便かつ一定の信頼性のあるスクリーニング方法が求められるが,その方法に関する報告は少ない. そこで、我々はフィンランドOVAKO社の開発したOWAS法を参考にして、実際の作業場面の姿勢と動作の観察から,従属変数に危険因子となる姿勢の評定値を用いた調査票の開発を試みた.本研究の目的は新たに簡便なアンケート調査票(調査票)を開発し、従業員の腰痛の程度と、危険因子,予防につながる行動を測定した後、実際の状況との関連性を求め、同調査票のスクリーニングの実装性を明らかにすることであった.【方法】1)アンケート調査によるWLBPの実態の把握(スクリーニング)対象はWLBPの発生頻度が高い製造業のX県郊外を除く5市(人口180万)の商工会議所連盟に所属するすべての中小企業(50件)を対象に郵送留め置き法にて、調査協力を依頼した。そのうち、応答のあった企業5社に対して調査票を送付した(A社16名,B社9名,C社11名).初回調査は2012年3月下旬に実施し36名の回答を得られ,再調査を同年8月中旬に実施し27名の回答を得た.調査票は、回答を腰痛の危険度に比例して点数化した。2)実態調査(タイムスタディ法)調査の回答が得られたA社従業員16名を対象とした.2012年8月の1日間(午前8時30分から午後18時)、我々が現場に出向き従業員の作業姿勢と動作、作業環境をタイムスタディ法で任意の20分間、40場面を撮影記録し,コンピュータでSeoの開発したJOWASを使用し,AC(作業改善要求度)判定を行った. 作業改善要求度の高い危険な姿勢および動作、重量運搬作業とされるAC3,さらに危険度の高いAC4の出現頻度を求めた.3)分析a) 2度にわたる調査票の回答から、過去あるいは現在腰痛を有していると回答した群を、意識的に運動をする群と運動をしない群に分け,初回と再調査の結果の総点数の差異の有無をMann-Whitney検定を用いて検討した.b) A社従業員の調査票の点数とOWAS法によるAC3,AC4の出現頻度との相関係数をR(Ver2.8.1)にて求めた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究ではすべての参加を呼び掛けた対象者に書面で、研究の内容を説明し、同意文書を受けてから、対象者を選定した。また、ヘルシンキ宣言に則り、人体に危険のないことを併せて説明し、同意を得てから実施した。【結果】アンケート調査は、過去に腰痛があり,意識的に運動を行っている群においてのみ、初回に比べ再調査の腰痛度が有意な改善を示した(P<0.05).現在腰痛を有していて意識的に運動を行っている群および、現在腰痛を有していて意識的に運動していない群、過去に腰痛を有していて意識的に運動していない群、すべて有意な改善を認めなかった. 調査票と実際の関連性は、協力の得られたA社従業員5名の調査票の点数とOWAS法によるAC3,AC4の出現頻度の相関が,r=0.69を示した. さらに主観的項目との相関はr=0.41,客観的項目との相関はr=0.053であった.【考察】過去に腰痛があり,意識的に運動を行っている群で初回と再調査の結果で有意な改善を示した.理由として,調査が従業員の健康への意識を与えたことが考えられる.また,他の条件群で有意差が出なかったのは作業関連性腰痛に季節による変動性が少ない作業環境かつ作業内容であった可能性がある.また調査票とJOWAS法はr=0.69と高い相関が認められ,一定の実装性が示された。主観的な回答項目の方が,客観性のある回答よりも危険な動作特定と調査票得点と相関する傾向にあった.この理由として,作業性腰痛は、姿勢変換等の動的要因と関連し 構造的な要素との関係は弱いことが考えられ、客観的項目が静的な状況を聞き取っていた可能性がある.【理学療法学研究としての意義】現在,従業員50名以下の企業は,衛生管理者の専任義務がなく、中小企業で働く授業員の作業関連性腰痛対策に姿勢や動作の危険度を測定することで,コストを意識した実現可能性の高い方法を開発する方法論は、これからのわが国の理学療法学においてニーズがあると思われる.