主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
p. E-40
皆さんは脳卒中後に見られる「共同運動」について明確に定義できますか? 私は学んできた共同運動の説明については全く納得していません。
いや,もっと基本的なことを問いましょう。理学療法士は股関節のことならばどの職種にも譲らないくらいの意気込みを持っているでしょう。その真の股関節,つまり寛骨大腿関節は何度屈曲できるか,知っていますか?
歩行分析にしても動作分析にしても,その分析行為は運動療法を行っていく上でとても重要な評価として位置づけられています。では,上肢を使わずに背臥位からうまく起き上がれない患者がいたとき,イメージした問題の筋はもしかしたら腹直筋ではないですか?
定義や基礎学問のない世界に科学的発展を期待することはできません。近年,ニューロリハビリテーションが活発になってきました。先進的発展はとても素晴らしいことであり,精力的に進めるべきだと思っているのですが,一方でこのような基本的なことが神経理学療法領域では置き去りにされています。例えば解剖学的知識は理学療法士にとって極めて重要なものですが,その内容は必ずしも理学療法モデルになっていません。私たちは動作を対象として業を為します。その動きを保障するシステムが脳にも身体にも存在しますが,それらを探求解明し,臨床に活かしていく責任は理学療法士自身にあるのです。先人たちが重ねてきた豊富な経験を活かしながらも,中枢神経障害の病態や理学療法のあり方について,新たに根拠をもって言語化していく責務があります。
私は若い頃,「理学療法士は脳画像ではなく,現象を見て分析し,アプローチを考えるべきだ」という教えを受けました。現象をしっかり観察することに異論はありませんが,脳が可視化できるようになり,脳あるいは脊髄の科学が解明されたこの時代に,脳画像を紐解くことをしないのは適切ではありません。1950年前後の反射生理学の世界では現象を見て判断することが求められましたが,現代は違います。患者には個別性があるからこそ,脳の状態にもしっかり目を向けなければならないのです。
前頭連合野は過去や今を評価し,将来に向けた行動計画を立て,実行していこうとします。私たちが脳や脊髄の中で起きている問題を理解しながら実践することは,患者の潜在能力を顕在化することにつながります。その可能性の広がりは中枢神経系の知識を保有した理学療法士たちの前頭連合野の機能に依ると言っても過言ではありません。その前頭連合野が出した予測も結果も個々の理学療法士による差が大きいのが現実です。難しい課題ではありません。教育を,あるいは学習をすればよいのです。その知識と知恵と創造力と情熱とで構築したデータが揃ってこそ,普遍的な新たな神経理学療法学が形成されます。過去の個々の経験則によって得られた常識を打破してこそ,次代を担う理学療法士になれるのです。再生医療やニューロリハビリテーションに応え,人間である目の前の患者と真摯に向き合える存在になってほしいと思っています。