抄録
唇顎口蓋裂患者の矯正治療上の大きな問題点として,上顎骨の劣成長による上下顎の前後的関係の不調和が挙げられる.これに対しては,混合歯列期に上顎骨の前方成長の促進を目的として,上顎前方牽引装置が適用されることが多い.しかしその治療効果については,個体差あるいは使用時期による差のあることが報告されている.
一方最近,乳粛列期に本装置を用いた治療に関する報告がいくつかなされている.この時期における本装置の適用については,潜在的な成長発育能が高い時期であるため牽引力に反応しやすいことも容易に推察される.本学部附属病院矯正科においても,上下歯列の近遠心的関係に著しい不調和が存在する重篤な骨格性反対咬合を有する唇顎口蓋裂患者に対しては,乳歯列期から上顎前方牽引装置を用いた治療を開始している.そこで今回,女子片側性唇顎口蓋裂患者11症例を用いてその治療効果について検討を行ったところ,以下の知見を得た.
1.治療開始から前歯部被蓋の改善までの期間は平均11.3カ月であり,全11症例中9症例で1年以内の改善が認められた.
2.治療開始から0年間のANBの平均変化量は3.48°であり,すべての症例で上下顎の前後的関係の大きな改善が得られた.
3.治療開始から一年間の上顎骨の前方移動量は平均2.4mmであり,約半数の症例で3mm以上の特に大きな値を示していたが,2症例では1mm以下であった.
4.乳歯列期から本装置を使用した場合は,混合歯列期に比べて上顎骨の前方成長の促進効果がすぐれているものと考えられたが,個体のもつ成長発育能によっては治療効果に限界のあることも示唆された.