視覚探索の実験において,妨害刺激の一部を先行して呈示した後,標的刺激を含む残りの刺激を追加して呈示すると,標的の探索時間は先行呈示された妨害刺激の影響を受けず,あたかも後続呈示された刺激のみの中から探索が行われうることが報告されている(先行呈示効果)。この現象は,先行刺激の抑制処理,あるいは後続刺激の優先処理のメカニズムを仮定することによって説明されている。本研究では,先行呈示効果に刺激の親近性が影響を及ぼすかを検討するため,実験1では探索刺激として平仮名文字の正像,実験2では倒立像(180度回転像)を用いて比較した。実験の結果,実験1・実験2ともに頑健な先行呈示効果の生起が確認され,実験間での相違は殆ど認められなかった。刺激の親近性が先行呈示効果に影響しないという本研究の結果は,旧刺激の抑制処理ないし新刺激の優先処理が,意味的・概念的情報とは独立に生じていることを示唆するものである。