本研究では、自伝的記憶質問紙(AMQ, Talarico et al., 2004; Rubin et al., 2003)に基づいた質問紙を用いて、情動的自伝的記憶の想起に伴う主観的諸特性について、性差および気分状態の影響を検討すること、また記憶の強度と情動価の諸特性への影響を検討することを目的として行った。その結果、肯定的出来事の記憶の方が、否定的出来事よりも、想起において視覚-空間的鮮明さや再体験感を多く伴い、またメタ認知(視点および自己認識的意識)、言語的詳細さも高かった。また、肯定的出来事と否定的出来事の各々について、性差、気分状態、感情の強度、感情価、記憶年齢を独立変数として重回帰分析した結果、個人差では、性差は自伝的記憶の言語的詳細さのみに関与し、直前の気分状態は想起に伴う諸特性にほとんど関与しないことが示された。また、記憶の強度は、情動価よりも、自伝的記憶の想起に伴う諸特性のほとんどすべてを有意に予測することが示された。