ある事象を考えないようにすると、その事象やそれに関連する事象がかえって頭に浮かぶという抑制の逆説的効果が注目を浴びている。本研究では、参加者自身が経験したエピソードに対して想起の抑制を求め、エピソードの数が逆説的効果の生起に影響を及ぼすかどうかを検討した。56人の参加者は、自分自身が経験したエピソードを1つ、あるいは3つ想起し、その後、エピソードの想起を抑制する、あるいは特別な教示がなされない条件にランダムに割り当てられた。エピソードの想起回数の合計を指標として分析した結果、抑制群は統制群の想起回数よりも多く、逆説的効果が生じたが、エピソード数による違いは見られなかった。また、3エピソード条件において、エピソードごとの想起回数を指標として分析した結果、すべてのエピソードにおいて逆説的効果が生じた。これらの結果から、逆説的効果はエピソードの数にかかわらず生じる可能性が示唆された。