抄録
視覚刺激と聴覚刺激が統合されるための呈示タイミング差の許容範囲(時間窓)はおよそ200ms程度であるが,単純な刺激(フラッシュ光と純音)を用いた場合,一定の呈示タイミング差(例:音が200ms遅延)で呈示され続けると,時間窓が拡大する。しかし,この時間窓の補正が,生態学的に妥当性が高く,刺激構造も複雑である音声刺激においても同様に生じるのかは明らかではない。そこで本研究では音声刺激を用い,McGurk効果の生起率を統合の指標とした実験を実施した。実験の結果,音声が233ms遅延するタイミング差に順応した場合,映像と音声が同期するタイミングに順応した場合と比べて,音声が遅延した条件でのMcGurk効果の生起率が上昇した。この結果は音声においても時間窓の補正が機能することを示唆し,視聴覚メディアへの応用が期待できる。