抄録
数の認知に関し、表記や課題に関係なく生じる意味の自動活性が処理の特殊性として論じられることが多い。本研究では日本語表記の特殊性に着目し、アラビア数字と漢数字および平仮名表記の数字を混ぜて用いた異同判断課題時に意味の効果が生じるかを調べた。Dehaene & Aknavein (1995)のパラダイムを利用し、同時に瞬間呈示される2つの数について、判断の基準が意味的な異同である課題と物理的な異同である課題を行った。その結果、仮名同士の比較条件および物理マッチング課題時の混合表記条件では意味の自動活性を示すディスタンス効果が生じなかった。仮名条件での心的過程は数処理に関する従来の見解とは異なり、音韻に依存したと考えられる。本研究の結果は認知神経心理学的な言語認知モデルで説明可能であり、数処理の特殊性とされていた現象の一部を、表意文字と表音文字の言語認知処理における特徴として解釈することができる。